【はちみつ文庫】 冬のたからもの 【R-18】
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□ 冬のたからもの  □

冬のたからもの 【R-18】

注:ソフトな表現ですが、児童虐待のシーンがあります。ご注意ください。

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「どうしたんだ、その声は?」

 携帯から聞こえてくるアレックスのしゃがれた声に、ルシガは驚いた。

「風邪をひいたみたいなの。すごい熱……」
「病院へは行ったのか?」
「ううん。まだ……」
「すぐにそっちへ行く」

 携帯を切り、ルシガはアレックスのマンションへと、車を走らせた。
 街には雪が降っている。
 マンションに着くと足早に部屋に入り、真っ直ぐに寝室へと向かう。
 ルシガが部屋に入って来たのも気づかず、アレックスは熱にうなされていた。

「おい、大丈夫か?」

 額に手を当てると、かなりの熱があった。
 ルシガはその熱を、掌で取り去った。
 軽度の医療行為への魔道師の介入は、魔法省と医療省との取り決めで禁止されていたが、今はそんな事を言っている場合ではない。
 アレックスの顔から、熱の赤味が引いていく。

 喉の枯れも治そうとルシガが額から手を離した時、アレックスが言葉を発した。

「ママ……いかないで……」

 アレックスの頬に涙が伝った。

「子供の頃の夢でも見ているのか……」

 指で涙をぬぐってやると、アレックスは両肩を抱きかかえるようにして、自分の躰を擦り始めた。

「大丈夫よ、アレックス。……ママはここにいるわ……ずっと一緒にいるわよ。……愛しているわ、アレックス……ママの大切な……宝物……」

 ルシガはアレックスが途切れ途切れに話す言葉に、違和感を感じた。
 それがまるで1人芝居をしているように見えたからだ。

「ママ……ママ……。……愛してるわ、アレックス……」

 言葉とともに子供の表情から、母性を感じる顔つきに変る。

 そう言えば今まで互いに、過去の話をするのを自然と避けていた。
 自分自身が詮索されたくないので、アレックスに訊くこともなかったし、彼から話してくることもなかった。
 だが今は、気になって仕方なかった。

 アレックスの精神はアンバランスだ。

 強いのに脆く、限りなく優しいのに どこか冷めた部分を感じることがある。
 仕事ではあれだけ有能な捜査官なのに、ささやかな喧嘩一つで崩れそうになる。
 それが どこからくるのか、いつも不思議だった。

 魔道師にとって、人の意識の中に入り込むのことは たやすい事だ。
 だが許可を得ずにそれをすることには、罪悪感がある。
 その気持ちはアレックスが恋人であるだけに、尚更あった。

 しかしこの時、ルシガは何故かそれを知らなければならないと思った。
 このままアレックスを、放っておいてはいけない気がした。

 そして覗いてはいけないと知りつつも、自分の右手を彼の額に当て意識を集中し、彼の意識の中に入っていった。




 ある雪の降る日、その子供は母に手をひかれ、この街にやって来た。
 母譲りの美しい子で、ライトブロンドの髪と、南国の海のようなブルーの瞳を持っていた。
 父はすでに他界し、2人の持ち物は大きめのトランクに詰められた物が全てだった。

 貧しい暮らしではあったが、その子は幸せだった。
 母が働く食堂の裏口で、いつも一人で遊んでいたが、淋しくはなかった。
 大好きな母の近くにいられる……ただそれだけでよかったのだ。

 その生活が一変したのは、その子が少年になった頃だった。
 母に恋人ができたのだ。
 いつもそばにいてくれた母は、家に戻らなくなり、少年は学校から帰ると一人ぼっちで過ごす日々が続いた。
 食事は冷蔵庫に用意されていたが、時に忘れられることもあり、空腹の夜を一人であかすことも少なくなかった。
 ストーブの油の切れた部屋で、毛布にくるまって凍えた日もあった。

 その頃から少年は、自然と自分で母親の役をやり始めた。
 空腹で眠れない夜は「アレックス。温かいスープができたわよ。さあ、一緒に食べましょう。おいしい?よかったわ。あなたの為に作ったんだから」と言い、
 寒くて凍える日は「アレックス。こっちへいらっしゃい。寒かったでしょう。さあ、ママが温めてあげる」とそのの躰を抱きしめた。

 寂しく辛い夜でも、そうすることで安心できた。
 幻想の中の母は、いつも少年の事を想い、大切にしてくれた。

 そんなある日、母が男を連れて帰って来た。
 母の恋人が、少年の家に一緒に住むようになったのである。
 食堂をやめた母は、男を養うために夜の仕事に出るようになった。

 母は化粧や服装が派手になり、その身体からは酒と煙草と香水の入り混ざった香りがした。
 学校から帰る頃には寝ていて、起きたらすぐに仕事に出るような母だったが、それでも一緒にいられることが幸せだった。

 しかし少年は、母の恋人が嫌いだった。
 いつも酒を飲み、ギャンブルに明け暮れている男だった。
 母が仕事から戻る明け方に聞こえてくる情事の声に、少年は耳をふさいで耐えていた。

 そんなある日、少年は男から犯された。
 始めは、からかうように裸にされたのかと思った。
 男の舌で躰中を舐め周わされ、吐き気がした。
 その後の耐え難い苦痛。

 下半身がやけるような思いの中、ふと部屋の入口を見ると、ドアの隙間から母の姿が見えた。
 仕事を早退して帰って来ていたのだ。

『ママ、助けて!』

 少年は声にならぬ思いで、母を見た。
 しかし母は、助けてはくれなかった。
 それどころか、もうそこには母はいなかった。

 一人の嫉妬に狂った女が、そこにいたのだ。

 それから少年は十歳で養護院に入るまでの半年間、女からの虐待を受けた。
 汚いものを見るような眼で見られ、学校にも行かせてもらえず、食事もろくに与えられなかった。
 機嫌の悪い日は暴力を振るわれることもあった。

 そんな時、少年は母に慰めてもらうしかなかった。

「アレックス、愛してるわ」
「アレックス、何が食べったい?」
「アレックス、私の一番の宝物!」

 少年の演じる母は、いつも昔のように優しかった。
 優しく頭を撫で、体を抱きしめてくれた。
 涙を流しながらでも、優しかった頃の母を演じると、安心できた。
 それだけが少年の心の支えだったのだ。




 ルシガはアレックスの意識から離れると、覗き見たことを後悔した。
 アレックスにとっては、一生誰にも知られたくないことだっただろう。

 だが見たことによって、自分が食事を作ってやった時 アレックスがあれほど喜んだことや、アミュレ対してに同情的だったこと全てに納得がいった。

 それから アレックスが女言葉を話す理由も わかったような気がした。
 母親の役を演じていたのが、その言葉を話すことで心が安定することを知り 習慣になっていったのではないだろうか。

 ルシガは寝ているアレックスを、そっと抱きしめた。
 愛しくて、愛しくて仕方なかった。

「……ん……ルシガ……?」

 抱きしめた力が強かったのか、アレックスが目を覚ました。

「すまない。起こしたか」
「なんだか躰が軽い……」
「熱を取ったからな」
「ありがとう……」

 アレックスの枯れた声に思い出し、ルシガは彼の喉に右手を当て、その痛みを取り去った。

「……喉が楽になったわ。また魔法を使わせちゃった?」
「ああ、違反が二つだ」
「……ごめんなさい」
「いいんだ、お前が元気になれば。ばれやしないさ」

 それからルシガはアレックスの髪をかき上げながら、その頬にキスをした。

「傍にいるから、もう少し寝てろ」
「ねえ、一緒に寝て」
「横になるだけだぞ。病み上がりなんだから」
「わかってる」

 ルシガが上着を脱ぎベッドに躰を滑り込ませると、アレックスが抱きついてきた。

「ルシガ……暖かい……」

 ルシガは一瞬ためらった。
 想いを言葉にするのはむず痒い。
 しかし言葉にしなければ伝わらない。
 ただ抱きしめるだけではだめなのだ。
 アレックスの心が何よりも欲しているのは、愛情を示す言葉なのだから。

「……アレックス、愛してる」

 ルシガが言った言葉を聞いて、アレックスは驚き彼を見た。

「どうしたの? 貴方が急にそんな事を言うなんて……」
「大切なんだ、お前が」
「……もっと言って……」
「お前は私の宝物だ」

 アレックスの目に涙が滲んだ。

「貴方もアタシの宝物よ」

 そう言うと2人は唇を重ねた。
 躰と躰の隙間がなくなるほど、抱きしめあう。

「また、熱がでちゃいそう……」

 アレックスはそう言うとルシガの広い胸に、顔をうずめた。
 ルシガは優しくアレックスを抱きしめると、その耳元で囁いた。

「傍にいるから、安心してゆっくり休むといい」

 ルシガの言葉を聞き、彼は再び眠りに落ちた。
 その寝顔は穏やかで、口元には微笑みが浮かんでいた。



 窓の外はいつの間にか雪がやみ、部屋には光が差し込んでいた。
 穏やかな光に包まれ、アレックスを抱きしめたまま、その温もりにルシガもいつしか眠りに落ちていった。







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Date:2011/03/02
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2011/03/02 【】  # 

* 鍵コメB様

コメントありがとうございました。
お引っ越しではありません。
小説をまとめたブログを作ったのです^^

シリアスも好きって言ってくださってありがとうございました~♪
そしていつも、遊びに来てくださってありがとうございます~^^
2011/03/03 【ねむりこひめ】 URL #- 

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