部屋に帰ったらとにかくシャワーを浴びて、10時過ぎまで待って、それからルシガに電話をしよう……その扉を開くまでに、アレックスは行動を決めていた。
しかし部屋に入ったとたん、人の気配に気づきその考えが変わった。
もしかして!
もしかして!
焦る気持で寝室に向かうと、そこには寝息を立てて寝るルシガがいた。
張りつめていたものが一気にほどけ、涙が溢れて来る。
ヘタヘタとその場に座り込み、子供のように泣いてしまう。
暫らくして、ふわりと温かく包まれたかと思うと、ルシガから優しく抱きしめられていた。
「来て……たの……?」
アレックスがしゃくりあげながら、訊ねた。
「お前が泣いているんじゃないかと思ったら、気になってな」
「……いつ?」
「別れてすぐ。タクシーに乗って来た」
「ずっと……待っててくれたの?」
「ああ。風呂に入ったら、眠くなって寝たがな」
「電話……してくれたらよかったのに」
背中に廻されたルシガの力が強くなる。
「昨夜は……すまなかった」
アレックスは返事もできず、かぶりを振った。
「自分の事でいっぱいで……お前の事を考えてやれなかった」
「ルシガ……アタシ……汚い?」
「……?」
「……汚れてる?」
「違っ……! 私は一度も、お前をそんな風に思ったことなどない!」
「だ……って……」
「私は……嫉妬していたんだ。あの大きな男の下で、お前がいつものような可愛い声を出していたかと思うと……そう考えるだけで堪らなくなった」
「ルシガ……ごめんなさい……。初めてじゃなくて、ごめんなさい……」
「馬鹿。……恥ずかしいから、一度しか言わんぞ。ちゃんと聞いておけよ」
アレックスの顎を持ち上げ、ルシガはその瞳を見つめながら言った。
「……お前は私にとって、女神みたいなものだ。何があっても……いつも清らかで、綺麗だ」
「……ルシガ……!」
アレックスは、ルシガの首に抱きついて泣いた。
「頼むから……もう、泣かないでくれ」
「ええ……わかってる……わかってる……」
「なあ、腹は減ってないか?飯でも食おう」
そこでアレックスは、弾かれたようにルシガの顔を見た。
「食べてないの……?」
「食ったのか?」
「……ええ」
「私のラムチョップと、フォアグラは?」
「……マシューと、食べちゃった」
「えええ~~~っ!」
「ご……ごめんなさい……てっきり帰っちゃったと思ったから……すぐに何か作るわ」
「私のラムチョップ……」
「ラムチョップは夕食に作ってあげるから……すぐ出来るもの……そうね、トマトもソースもチーズもあるから、ピザでもいい? 生地は冷凍物だけど。そうだ、ポテトも揚げてあげるわね!」
そう言ってアレックスはキッチンへと向かった。
キッチンで食事を用意していると、アレックスは自然と自分が笑っていることに気付いた。
先程まであれほど悲しく、心細かったのに……ルシガの一言で、嘘のように心が晴れている。
『恋は魔法って言うけど、本当ね』
恋人との関係一つで、見える景色まで変わってきてしまう。
ダイニングで食事を待ちわびているルシガがいる……それだけで温かい気持ちになった。
冷凍生地に特製のトマトソースをかけ、切った新鮮なトマトとチーズを乗せた後、調味料とバジルを散らしてオーブンへ入れた。
ピザを焼いてる間にポテトを揚げ、ビールと一緒にルシガに持って行く。
「オーブンのタイマーが切れたら、火傷をしないように気を付けて出してね。アタシはシャワーを浴びてくるから、2切れだけピザを残しておいて」
そう言ってバスルームに向い、アレックスはシャワーを浴び始めた。
温かいシャワーを浴びると、自分の身体が冷え切っていたのを実感した。
バスタブにお湯を張り、身体を温めることにする。
湯船につかっていると肝心なことを2つ、ルシガに言い忘れていることに気付いた。
1つは笑い話で済むことだが、もう一つは例のビラの件だ。
隠しておけることかもしれないが、ルシガに秘密を持ちたくなかったし、他人からそれをルシガに聞かせたくはなかった。
「大丈夫。事情をきちんと説明すれば、きっとわかってくれるわ」
アレックスは自分に自信を付けるように、口に出して言った。
そして身体の隅々まで、磨き上げるように綺麗にした。
これから過ごす時間の為に……。
シャワーからあがり、髪を乾かしてからダイニングに向かうと、ルシガがそこで待っていた。
「ピザが冷めたぞ」
「うん。大丈夫」
そう言って、ガス入りのミネラルウォーターを冷蔵庫から取り出すと、テーブルに着いた。
冷めたピザを口に運びながら……一瞬考え、思い立ったように席を立つ。
再び戻って来た時には、アレックスはその手に1冊の雑誌を持っていた。
表紙から見て、明らかにゲイ雑誌である。
「これを見て」
「……う。だから私はこの手の趣味はないと……」
「いいから見て。お願い」
ルシガが雑誌を捲ると、そこにはグラビアが載っていた。
全裸であの部分を立たせた男や、男同志が裸で抱き合う写真が並んでいた。
ルシガはしょっぱい顔をしながらパラパラと捲ったが、すぐに雑誌を閉じた。
「ちゃんと見てよ」
「こんなの、どのページを見ても同じだ」
「じゃあ、ピンナップを開いて見て」
「もういい」
「だめなの! ちゃんと見て欲しいの!」
アレックスの真剣な訴えに、ルシガは渋々ピンナップを開くと……椅子から飛び上がらんばかりに驚いた。
「な……なんだ! ……こ、これは?」
「昔……アルバイトで写した写真なの」
「アルバイトっていったって……でも、これは……」
そこには今よりも幾分若く、髪の短いアレックスがいた。
妖艶な頬笑みはそのままで、セーラー帽にブルーと白のボーダーのセーラー服、そして布が破けそうなくらい小さなブルーのTバッグを穿いて、感応的なポーズを取っている。
全身に水を浴びており、セーラー服はピチピチで、ボーダーの間から乳首が透けて見えている。
下半身も完全に起き上がっており、Tバックの前ははち切れんばかりだ。
なのに何故か、白いソックスを履いた不思議な写真は、どう考えても芸術作品ではなく、ただのポルノだった。
目を白黒させて凝視しているルシガに、アレックスは言った。
「この頃……アルバイトをいっぱいしてたんだけど、大学に行くお金が足りなくって……バイト料が良かったから……つい」
「……」
「本当は絡んだり、全裸の方がバイト料は良かったんだけど……それは嫌だったから……」
「絡みはいかん! 全裸もいかん!」
「……許してくれる……?」
「うっ……許すもななな、なにも……お、お前の過去だ」
ルシガの顔はひきつり、声も上ずっている。
「いいの?」
「……今後は、絶対にするなよ」
「ええ。もうルシガ以外には、絶対見せないわ! ありがとう、ルシガ!」
そう言うと、アレックスはルシガに抱きついた。
ベッドに入り互いの服を脱がし合った後、アレックスはルシガの逞しい胸に、その頬を寄せた。
「長かった……」
「ん?」
「昨日から今日まで……長かったわ」
「ああ……」
それからキスをする。
最初は優しくついばむ様に、次第に激しく互いの唇を貪った。
アレックスはルシガの口腔の上を、舐めるように舌を動かした。
その舌をルシガに絡み取られて、思わす声が出る。
「んっ……ぅん……」
唇を離したルシガが、耳元で囁く。
「アレックス……可愛い」
低く艶のある声は、アレックスの心を蕩けさせた。
首筋から鎖骨のくぼみを舐められ、両手の指先で乳首を弄ばれる。
「あ……あんっ……」
小さな尖りを指先で弾かれて、また声が漏れる。
ルシガは丹念に乳首を責てきた。
しゃぶり上げられた後に、軽く歯を立てて噛まれると、アレックスは背中が浮くほど感じて、涙声になる。
「……ルシガぁ……欲しい……」
アレックスを後ろに向けると、ルシガはその背中の中央を下から上に舐め上げた。
「はぁ……っ!」
顎を仰け反らし感じるアレックスに、ルシガが声をかける。
「堪らない……アレックス。ずっと苛めていたい」
「……ねえ……ルシガ……お願い、来て」
待ちきれなくなったアレックスは四つん這いになり、ルシガを誘った。
ルシガはその背中を撫で「雪のように真っ白だ」と言いながら、腰のくびれから尻にかけてのカーブを、優しく指先でたどる。
アレックスの太腿の内側が、その動きに合わせてヒクついた。
「あ……んっ。意地悪……」
「綺麗だ」
「恥ずかしい……ねえ、早く……」
何度も請うて、やっとルシガが挿って来た時には、アレックスの身体は熟し切っていた。
「あ……っ、ああ……!」
「アレックス……絡みついてくる。いいよ……すごく」
アレックスに覆いかぶさるようにして、ルシガは耳元で囁いてくる。
そうすることでアレックスが、より一層高まることを知っているからだ。
ゆっくりと腰を上下に動かされ、快感がアレックスの身体を走った。
「あんっ……ああ……もっと……もっとちょうだい……」
「ここか?」
「はぁぅ……っ!」
敏感な部分を突かれ、自然に涙が溢れる。
その涙を確認すると、ルシガは動きを早め、リズミカルにアレックスを責め立てていく。
「あん……あん……あんっ!」
「アレックス……私のアレックス……」
「ああ……ルシガ……いい……変になっちゃう」
ルシガの手が前に伸びる。
アレックスのそれを掴むと、上下に扱き始めた。
「いやっ……あっ……ああ……っ」
アレックスは快感に苛まれて、上半身を腕で支え切れなくなる。
ルシガは胡坐をかくと、その中にアレックスの腰を落とした。
背中を弓なりにさせてアレックスが身悶える。
「は……っ。……す……ごい……ああ……っ!」
アレックスは激しくルシガに責め立てられ、声を上げた。
「ひぁ……っ。……んっ。……んっ……んっ」
動きに合わせて喘ぐアレックスに、ルシガが囁く。
「……我慢しなくていい、達けばいい……」
「あっ……ああっ……ん……。あんっ、もうだめっ! あああああっ!」
その声とほぼ同時に、アレックスの前が弾けた。
後を追うように後ろが脈打ち、ビクビクとルシガのそれを刺激した。
「アレックス……好きだ……愛してる」
そう言うと、ルシガはアレックスの中で達した。
行為の余韻を楽しみながら、2人は長いキスをした。
ルシガの胸を弄っていたアレックスが、急に思い出したように言う。
「ねえ、ルシガ……さっきのことなんだけど……」
「ん?」
「他の男の下で、アタシが喘いでいることを考えたら、嫉妬するっていったでしょ?」
「もう、その話はしない」
ルシガは露骨に不快感を顕わにしたが、アレックスがそれを否定するように話し続ける。
「あれ、違うの」
「?」
「アタシが下じゃなくって、上なの」
「……お前は上が好きだからな」
「違うの。そうじゃなくって、アタシが男役ってこと」
「ふーん……え?……ええっ?」
ルシガが急に飛び起きた。
「だから……あっちが、女役だったの」
「あんなデカイ身体でか?」
「体つきは関係ないわ」
「ええ?ええーっ?」
「アタシが喘いでたんじゃなくって、喘いでたのはあっち。もともとアタシ、男役の方が多かったし」
「そ……そうなのか……?」
ルシガはキョトーンとしながら、その目が泳いでいた。
「アタシをこんな仔猫ちゃんに仕込んだは、ルシガよ♡」
「お前は仔猫と言うより、豹だが……」
「やーね。女役の事をネコって言うのよ」
「そ……そうなのか……」
「仔猫ちゃんにしたんだから、ちゃんと責任を取ってね」
「せ……責任を取るって……」
「はい。今から2回目をしまーす♡」
「お……おい。まて、あっ、そんなところを急に……こら」
「うふ。もう大きくなり始めてる~♪」
そう言うと、アレックスは片手でそれを扱きながらルシガの上に跨った。
それから鼻歌交じりに、ルシガの身体中にキスをし始める。
「あっ……アレックス……」
「ルシガ……好き……好き」
今年も呆れるほど熱々の2人の姫初めは、まだ始まったばかりである。
そしてルシガはこの後、腰が立たなくなるほどアレックスから求められる事になるのだった。
了
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