【はちみつ文庫】 南の島の海の青 1
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□ 南の島の海の青  □

南の島の海の青 1

プロローグ:

 ルシガが、魔法省の若き事務次官メイサンの執務室に入ると、その男は窓際に立ち外を見ていた。

「雪が降って来ましたね。今夜は寒くなりそうだ」

 男は振り返ると、ルシガに言った。

 髪を後ろになでつけ、縁なしメガネに黒のスーツのその姿は、ただのエリート官僚にしか見えないが、彼はルシガと同じく、強い力を持った魔道師である。

「事件は終わったぞ。後はお前が好きなように処理すればいい」

 ルシガは、慇懃無礼で人を駒のように操ろうとする、この男のが嫌いだった。
 アレックスが絡んでいなければ、手を貸したくもない相手だ。
 その気持ちはメイサンに十分伝わっているようで、男は苦笑しながら言った。

「ええ、貴方の活躍には感謝していますよ。これで省内の不祥事を内密に処理できる……しかし、高くつきましたがね」

 アレックスが魔法省に不都合な 例の事件の真相を秘密にする代わりに、何かを要求したらしい。

「モーリス諸島は暖かいでしょうね」

 メイサンの眼鏡が意地悪く光った。

「では接待の方、よろしくお願いします」
「……接待?」

 突然出たその言葉に、ルシガは眉をひそめた。

「おや? ご存じない? 私はてっきり貴方の要望も入っているのだと思ってました」
「どういうことだ?」
「バジル特別捜査官が、今回の事件を口外しない代わりに出してきた条件です。モーリス諸島行きのコンパートメントクラスの往復航空券と、貴方の同行……」
「なんだと?」
「出発は明後日ですが、よろしいですね?」
「私は行かんぞ!」

 メイサンはわざとらしく、意外な事を聞いたような顔をしてルシガに言った。

「それは困ります。航空券の手配は済んでいますし、バジル捜査官の休暇届けも、私から特別警察に頼んで受理してもらったのですよ。それに貴方の同行は、彼の絶対条件ですから」
「断る!」
「これは魔法省からの正式要請です。事件を内々に処理するのは、長官の意志です。必要とあれば、命令書を持って空港まで連行してもいいんですよ?」
「……」
「貴方の協力に感謝します」

 メイサンは勝ち誇ったように、方頬をあげて微笑んだ。
 そして急に声のトーンを落とすと、囁くように続ける。

「ご安心なさい、この件の詳細は私と秘書しか知りませんから」

 そのお前に一番知られたくないんだ! と、ルシガは叫びたかった。

「魔道師の出入国許可証も早急に作らせます……ホテルはどうしますか?」
「こっちで取る!」

 メイサンが予約した部屋などに泊まれるものか。
 隠しカメラがどこかに仕込まれてるのではないかと、気が気じゃない。
 もちろん相手はそんな暇人ではないのだが、とにかく気が休まらないのだ。

「貴方ならそう言ってくれると思ってました。経費が節約できて助かります」

 ルシガが返事もせず部屋を出ようとすると、その背中に声が浴びせられた。

「航空券等は明日秘書に届けさせます。自宅でいいですか?それとも……」
「もちろん、自宅だ!」

 そう言うとルシガは大きな音をたてて、扉を閉めた。
 



 出発当日:

 非常に不機嫌な顔つきで、ルシガは空港に降り立った。
 あれから何度もアレックスから電話がかかって来たが、ルシガは出なかった。
 今朝も「空港で待ってるから、絶対に来てね」と、メッセージが入っていたが、返事をせずにここまで来た。

 空港内に入り、チェックインカウンターに向かい歩いていると、アレックスがどこからともなく駆けよって来た。
 七分丈のベージュのパンツに、紫のダウンを羽織ったアレックスは、そのモデルのような長身と、金髪碧眼の美貌で広い空港内でも非常に目立つ。
 いつもなら冷たくさえ感じる美貌も、ルシガと旅行に行ける嬉しさからか、華やかにほころんでいた。

 彼はルシガの一歩後ろまで近づくと、小さな声で「来てくれてありがとう」と言って来た。
 ルシガは無視したまま、カウンターでチェックインをする。

「いらっしゃいませお客様。コンパートメントクラスのペアシートですね」
「ペアシート?……シングルシートに変更してくれ」
「……あいにくですが、本日は満席でして、お席の御変更はお受けしかねます」

 ルシガは渋々了解し、チャックインを完了させた。

『よりによって、ペアシート!』

 離れて後ろで待っていたアレックスを、キッと睨むと、ルシガは歩きだした。

 アレックスが再び駆け寄ろうとすると「魔道師の出入国は別だ。お前は一般から入れ」と言い、後ろも振り返らずに魔道師出入国審査室へ入って行った。




 魔道師の出入国には、特別な審査がいる。
 魔道師の渡航そのものを拒否する国は少ないが、その力を自国内で禁止する国は意外に多い。
 モーリス諸島もその中の一つだった。

 ルシガは出入国許可証を提出し、渡航先で魔力を使わないと言う誓約書にサインをすると、係員から封印の腕輪をつけられた。

 封印の腕輪と言っても、魔道師の力をなくす効果はない。
 魔術を使おうとすると警告音が出て、使うとカウンターに表示が出る仕組みの装置だ。
 帰国時にカウンターが上がっていて、違反が見つかると、拘束され、裁判にかかることになるのだ。

 実に面倒な仕組みだったが、魔道師の持つ力の強さを考えれば仕方ない処置だった。
 これ以降、一切の魔法が装置を外されるまで使えなくなる。




 出国審査が終わると、ルシガはコンパートメントクラス専用の待合室に通された。
 通常はよほどの有力者か、政府高官しか使えないので、待合室から個室になっている。
 ルシガが部屋に入ると、アレックスはソファーに座って待っていた。

「まだ、怒ってる?」

 アレックスは長い脚を斜めに組み、覗き込むようにして訊ねてきた。

「当り前だ」
「ねえ、せっかくの旅行なんだから、仲よくしましょうよ。じゃないとつまらないわ」
「……」
「前に、一緒に旅行に行こうって言ってくれたじゃない」
「こんな形じゃなくて、だ」
「だって2人の予定を合わせるなんて、こうでもしないと出来ないでしょう?」

 それはその通りだった。
 ルシガには魔道師としての仕事があるし、アレックスもこう見えても有能な特別捜査官で、事件に追われる毎日だ。
 お互い不規則な仕事の上に、諸々の手続きを考えると、こうでもなければ長期の休暇を合わせるなど不可能に近かった。

「それにね、一度コンパートメントクラスのペアシートに乗ってみたかったの。だって、普通じゃ絶対乗れないもの」

 これもその通りだった。
 コンパーメントクラスは、特権階級のステイタスの様なものだ。
 一般人がどんなに望んでも、簡単に乗れる者ではなかった。

「そんな顔をしてないで、一緒にガイドブックでも読みましょうよぉ。おいしいものを、いっぱい食べましょうね……それより……ねえ、その格好で行くの?」
「悪いか!」
「だって……そんな魔道師ファッション……リゾート地っぽくないわ。それに現地じゃ暑いわよ、その格好じゃ」

 ルシガは黒のレトロでデコラティブなスーツに、黒いマントを羽織っていた。
 全身黒ずくめの服は、確かにリゾート地には不向きだ。
 あまりに憤りが激しかったので、何も考えずに荷物を用意した結果がこれだったのだ。

「水着は持ってる?」
「ああ・・・それは入れた」
「じゃあ、他の服はあっちについてからお買い物しましょう。アタシがコーディネートしてあげる」
「ああ」

 と返事をして、ルシガはしまったと思った。
 自分は怒っていたのだ。
 それがうっかり仲直りする形になってしまった。

「ねえ、アタシ達すごくラッキーなのよ! 行ってる間に、ロモモ島でカーニバルがあるの。一緒に見に行きましょうね!」

 ロモモ島はルシガ達が泊まる本島のすぐ隣の島で、そのカーニバルは世界三大祭りの一つである。

 ルシガはそれを聞いて、どうりでホテルが取りにくかったはずだと思った。
 やっと見つけたホテルは新婚向けのコテージタイプだったが、それにしても目の玉が飛び出るほど値段が高かったのは、これだったのだ。

 そんな話をしていると扉がノックされれ、二人は航空会社職員に搭乗機へ案内された。




 コンパーメントクラスは、飛行機の二階席前部にあった。
 気圧と空調の関係で個室の扉の上下には15cmくらいの空間が空いているが、プライベートが完全に守られ、二つのスペシャルシートが並んでも余裕のある広さがあった。

 アレックスは二人っきりになると、大騒ぎをした。

「キャー素敵! インテリアも落ち着いてて、豪華だわ~」

 そして座り心地の良いシートに座ると、足をバタつかせ「広ーい!」と、無邪気に喜んでいる。
 こんな姿を見ていると、こんな形ではあったが旅行に出てよかったと流志賀は思った。

 出発前には最高級のシャンパンが出され、機内食も高級レストラン並みの味だった。
 アレックスは事あるごとに、写真撮影をねだった。
 ルシガは言われるがままにシャンパンとアレックスや、機内食とアレックスの写真を撮らされた。
 
 その一つ一つに大喜びするアレックスを、ルシガは愛しく思ったが、食後の飲み物を持ってきた客室乗務員に、彼が2人の写真撮影を頼んだ時には、さすがに拒絶した。
 しかし客室乗務員の「まあ、そうおっしゃらずに」の言葉に、写らざるをえなくなってしまった。
 
 写り終わると、画像を確認したアレックスが「あーん、ルシガったら、写真うつりが悪ーい」と、言う。

「うるさい」
「でも初めての2ショットだから……嬉しい」

 そう言い、アレックスはカメラを大事そうにしまった。
 そして「……さてと」と言い、席を立つと、いきなりルシガの膝に跨った。

「何をする!」
「もちろん、セックスよ?」

 当然のように答えるアレックスに、ルシガは顔を真っ赤にして怒った。

「ばか、こんな所でするか!」
「あん。だってせっかくのコンパートメントシートだし、着くまではあと四時間はかかるでしょう? たっぷり楽しめるわ」

 そう言いながら、ルシガのズボンのベルトを外し始める。

「やめろ!」

 ルシガはアレックスの手を払った。

「ルシが……冷たい……」
「何が何でも、だめだ!」
「わかったわよ……」

 意外にも素直にアレックスはルシガから離れた。
 仲直りしたばかりなので、再び喧嘩をするのを避けたようだ。
 アレックスは自分の席に戻ると、シートを倒し毛布に潜り込んで言った。

「そのかわり、今夜は寝かせないから」
「……」

 ルシガは宣戦布告を受けたような気分になり、夜の為に自分もシートを倒し、仮眠を取ることにした。
 アレックスの本気がすごいことは、何よりもルシガが一番よく知っているからだった。




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Date:2011/02/24
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