鍼の後、薬油マッサージの心地よさに、うとうとと眠りこんでいたルシガは「ハイ、オワリ。オフロ、ハイッテ、アブラオトスネ」の声に起こされた。
バスルームに行くと、そこには一足先にコースを終えたアレックスが、薔薇風呂に浸かって待っていた。
「ねえ、調子はどう?」
そう訊かれ、ルシガは初めて 全身の筋肉痛が取れていることに気付いた。
「おお!躰が軽いぞ」
「よかった。食事も薬膳にしたから、もっと元気になるわよ」
「ああ……すまんな」
「ねぇ、ルシガ見て」
そう言うとアレックスは湯船から立ち上がり、ルシガにを背面を見せながら
「お尻までツルツルよ♡」と、言った。
確かに肌がいつも以上に輝いて、しかも真っ白な肌が湯で桜色に染まり、色っぽいことこのうえない。
「ねぇ。……ここでする?」
「何を考えてるんだ、お前は!」
「あん。つまんない」
ルシガはアレックスを無視して、躰と髪を洗いだした。
良く考えたら、昨日はあのまま寝て、今朝もシャワーどころではなかったのだ。
長い髪を洗うために頭を下げると、アレックスが背中に抱きついてきた。
「ねえ……しましょうよ♡」
アレックスの白い肌が、しっとりとルシガの躰にくっついてくる。
「やっと疲れが取れたのに、するか!」
「せっかくルシガの為に綺麗になったのに~」
「だめだ。今日はせんぞ。何もせん」
下半身に伸びてきた手を振り払うと、ルシガは黙々と髪を洗った。
風呂あがりに食べた薬膳は旨かったが、何だか精力がつく物ばかり食べさせられたような気がした。
食事が終わると、二人はルシガの服を買う為に、買い物へ出かけた。
アレックスはテキパキと、ルシガに似合う涼しげな服を選び出してくれた。
カーキの薄手のパンツに、淡いベージュの半袖のシャツを着ると、その快適さは天国だった。
ルシガは帽子が好きではないが、黒髪に直射日光は暑いのでかぶることにした。
髪を一つに結んでハットをかぶると、その長身もあって、嫌味なぐらい似合う。
隣に立っているアレックスも、大きな帽子に 黒の麻の七分丈パンツ、タンクトップの上から 日焼け防止の長袖のレースのシャツを羽織った姿が女優のようで、何とも美しいカップルだった。
買い物を終え街を歩いていると、アレックスがあるショップの前で立ち止まった。
「ここに入りましょう」
アレックスに即され入った店内には、モーリス島の民族衣装が所狭しと飾られた 土産物屋だった。
色とりどりの色彩で描かれた美しい模様の開襟シャツと、スカーフのような巻きスカートが男性の正装のようだ。
「ねえ、ルシガ。ペアルックがしたい」
ルシガは即座に『嫌だ』と言いたかったが、いつも自分を気遣かい 一歩後ろを歩くアレックスを思うと、むげには断れなかった。
「地味なのがいい。あ、スカートはいらんぞ」
そんなルシガの言葉に、アレックスが選んだシャツは茶色のシンプルな物だった。
「これなら着てくれる?」
「ああ」
「ねえ、アタシにはどっちが似合う?」
同じ柄の赤とブルーを両手に持ち、訊ねてきた。
アレックスは色白なので、その瞳のようなシーブルーが良く似合う。
「こっちだ」
「じゃあ、そうする」
嬉しそうに微笑むと、アレックスは済ませた。
「ねえ、カーニバルにはこれを着て行きましょうね」
「……ああ」
「本当?」
「ああ」
「嬉しい!」
こんな時のアレックスは、子供のようで可愛くて仕方ない。
誰もいなければ、抱きしめたいくらいだ。
……が、素直でなく、実は照れ症のルシガが、そんな事をするはずがなかった。
買い物を終え、一度ホテルに戻り荷物を置くと、2人は観光へ出かけた。
特産物のサトウキビ畑を見て、恋人同士で訪れると幸せになると言う岬を周ると、あっという間に夕食の時間になった。
地元料理で有名な、ビリカと言う料理を食べに行くことにする。
ビリカは炭火で焼いたバーベキューを、ガーリックやハーブと共に特製のたれをかけ、それを葉物で巻いて食べる料理だ。
シンプルな味付けだが 味に奥行きがあり、いくらでも食べられる旨さだった。
食事を終えホテルに戻り一息ついていると、シャワーを終えたアレックスが、衣装替えをしてバスルームから出て来た。
「な……何だ、その格好は?」
アレックスは大きめのVネックのサマーセーターに、短パンを履いていた。
細かなラメが入った銀色のサマーセーターは、躰のラインが透けて見えるほど薄かった。
黒い皮の短パンからは 引き締まった長い足が出ていて、その色の白さと相まって、いやらし過ぎるほど色気がある。
「さあ、クラブへ出かけましょう!」
「クラブ?」
「どうしても行きたい有名クラブがあるの!」
「その格好でか?」
「そうよ。だってリゾートですもの」
ルシガは渋りながらも、アレックスに引っ張られるようにして、クラブの前にやって来た。
クラブに並ぶ人々を見て、ルシガは嫌な予感がしたが、中に入ると案の定、そこはゲイ専用のクラブだった。
大音量の腹まで響いてきそうなダンスミュージックの中、薄暗い店内に色とりどりのライトがさざめく。
踊る者、酒を飲む者、イチャつく者、全てが男同志か、女同士だった。
二人がテーブルに座ると、店内の視線が集中した。
しかし口笛を投げかけられ、手を振られるのは、全てアレックスに向けてだった。
「……騙したな」
「騙してなんかないわよ。ガイドブックに載ってるくらい有名なんだから。ねえ、踊りましょう!」
「嫌だ」
「あ~ん、ルシガ~」
「死んでも嫌だ。一人で踊って来い」
アレックスは頬を膨らませると「いいわよ」と、言ってフロアーへ出て行った。
男達の視線を一身に受け、アレックスが踊り始めると、店内のテンションが一気に上がる。
セクシーなダンスと、ライトに映し出される妖しげな美貌は、アレックスを見慣れている、基本ストレートのルシガでも見惚れるほどだ。
なので、それを見るその道の男達の視線は、まるで視姦するかのように熱い。
気がつけばアレックスはフロアーの中心で、男達に囲まれていて踊っていた。
すると取り巻きの中の筋肉隆々の大男が、アレックスに絡んできた。
始めはアレックスも軽くあしらっていたが、そのしつこさに彼の表情が曇っていく。
男がアレックスの腰を掴んで、その股間を下半身に擦り付けた瞬間、ルシガは思わず立ち上がりそうになった。
『落ち着け。アレックスは強いんだ。私が出ていく必要はない』
そう思った時、ルシガは不意に肩を掴まれた。
振り返ると二十代前半の若い男が、ルシガを見つめ微笑んでいる。
「ねえ、一人で寂しくない?」
「いや、全然」
「僕が慰めてあげるよ」
「いや、いらんから・・・って、おいお前、何をする?」
男はボタンをはずしシャツの中に手を入れると、ルシガの胸を弄った。
「思ったとおり、逞しいんだ」
ルシガが男の手を跳ね除けようとした時、突き刺さるような視線を感じた。
見ると、アレックスが目の前に立っているではないか。
「何やってるの、ルシガ?」
「へ? 何って?」
「アタシが嫌な男に襲われかけてる時、助けもしないで、若い男とイチャイチャするなんて!」
「ご……誤解だ。だいたいお前に助けはいらんだろう?」
フロアーには、アレックスに後ろ蹴りされた男が突っ伏している。
「この浮気者!」
パシーンと、ルシガの頬を叩いて、アレックスはクラブから出て行った。
若い男はルシガの首に抱きつき「おお、怖い。あんな人やめて、僕にしなよ」と言った。
ルシガはその腕を振り払い、アレックスを追った。
外に出ると、通りの向こうにアレックスの姿が見えた。
走って追いつくと「ついて来ないで!」と言われる。
アレックスは泣いているようだった。
「助けなかったのは悪かった。だがあの男の事は誤解だ」
「知らない!」
泣きながら速足で歩くアレックスを追っうと、いつしか繁華街の裏側に来ていた。
薄暗い路地には乱雑に物が置かれ、いかにも危険な感じがした。
「おい。タクシーでホテルに戻るぞ」
「放っておいて」
そんな会話をしていると、物陰からの男達が出てきた。
その中の一人は、クラブでアレックスが足蹴りで倒したあの大男だった。
「さっきは、よくも恥をかかせてくれたな」
映画のような展開に、ルシガは吹き出しそうになった。
「そいつがお前の男か? 綺麗な顔をしてるじゃねぇか。二人まとめて可愛がってやるぜ。覚悟しな」
「質問だが、その可愛がるとは何だ?」
ルシガの問いに、男は卑猥な笑い声をあげ答える。
「俺達の巨根で、ヒイヒイ言わせてやるってことだ」
「……やっぱり……」
ルシガは呆気にとられた。
『まったく……どいつもこいつも。ゲイと言うのは、よくわからん世界だ』
しかし考えてみると、アレックスとの喧嘩の発端はこの男だった。
そう思うと無性に腹が立ってきた。
学生時代には、喧嘩で負けたことがないルシガの腕が鳴った。
相手は四人。ルシガにとってはぎりぎり素手で勝負できる人数だった。
ルシガは構えると、男達に向かって行った。
「もう、無理するんだから……」
ルシガはホテルの部屋で、アレックスから傷の手当てを受けていた。
「拳で喧嘩しちゃだめよ。潰したら、どうするの」
「でも、勝ったぞ。……あいてて……」
口元の切れに触られ、思わず声が出る。
「ん? なんだか痛みが治まってきたぞ?」
「だって、秘書が持って来た薬を塗ったもの」
「なんだとー?」
ルシガの眉毛が上がる。
「だってあのまんまじゃ、明日顔が腫れちゃうかもしれないじゃない」
「腫れた方がましだ!」
「もう、子供みたいなんだから」
そう言って、アレックスはルシガの頬にキスをした。
「守ってくれて、ありがとう」
「……ああ」
自然に唇が重なり合う。
滑らかなアレックスの舌先が、ルシガの躰を熱くした。
唇を離すとルシガが言った。
「大体お前が悪いんだ。あんな誘うようなダンスをするから」
「だって誘ってたんだもの」
「え?」
「貴方を……」
「……」
「ねえ、身体はもう大丈夫?」
「……ああ」
アレックスは潤んだ瞳で、ルシガを流し見しながら続ける。
「ねえ……ルシガ。アタシの為に喧嘩してくれてるところを見たら、身体が火照っちゃった……」
「どうして欲しい?」
「後背位で……犯して欲しい……」
「おいで」
ルシガはアレックスを抱き寄せると、その金髪に顔をうずめながら言った。
「今日クラブに行って思った。……どう考えても、私はゲイではない」
「そうね……」
「男を見ても何も感じないし、女の方が好きだ」
「……知ってる」
「でもお前だけは別だ。欲しくてたまらないし、嫉妬もする」
アレックスが弾かれたように、ルシガを見た。
「本当に?」
「他の男に見せたくないし、触らせたくもない」
「ああ……ルシガ……」
アレックスはルシガにしがみつくと、その耳元で囁いた。
「その言葉だけで、イッちゃいそう……」
そしてアレックスは服を脱ぎ、四つん這いになると、その美しい尻を高く持ち上げルシガを誘った。
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