「ちょっと待て、アレックス! 死ぬ~! 死ぬ~!」
ルシガはアレックスに腕をねじ上げられ、首をホールドされていた。
「んぎゃ~っ! 離せ~っ!」
苦痛に涙を流しながら叫ぶルシガに、アレックスが言った。
「だって、ルシガが襲うんだもの~」
「ぐぎゅ~っ。死ぬ~」
「もう襲わないって言って!」
「ほ……本当に、本当に死ぬる~」
ルシガがいくら躰が大きく、力があると言えど、特別警察で本格的な訓練を受けたアレックスの本気にはかなわなかった。
その顔は真っ赤になり、窒息寸前である。
ルシガの意識が遠退きそうになった時、アレックスはようやくその手を解いた。
「ゲホッガホッゴホッ。ひーはーっ。あぁ……、本当に死ぬかと思った」
喉を押さえながらルシガが咳き込む間に、アレックスは部屋の隅に逃げ込んだ。
「こっちへ来ないで!」
明らかに異常事態発生である。
あのセックス大好きなアレックスが、急にお堅くなってしまったのだ。
「来ないでって言っても、やらんことには治らんぞ」
「いやっ! 不潔っ!」
アレックスは聞きたくないとばかりに、その耳を塞いでいる。
――おいおい、今時処女でももっと大胆だぞ。
アレックスは一歩近づくだけで、舌を噛み切らんばかりの勢いである。
ルシガは大きく溜め息をつくと、布団の上に仰向けに転がった。
「あーあ、もうしらん! お前なんか、好きにしろ!」
その言葉を聞いた瞬間、アレックスの瞳から涙がポロポロと零れ落ちた。
「ルシガ……呆れた?」
「ああ!」
「だって……アタシ達……まだ早いと思うの……」
「……早いって。さっき、ガンガン腰を使って他のは誰だ?」
「そんなこと……してないもの。……う……っ」
「おーい、泣くなよ~」
「だって……ルシガに嫌われちゃう……ぅわぁあああん!」
「……泣きたいのはこっちだ……ああ! もう!」
「うぁああああああん。……ルシガ……ごめんなさい……嫌いにならないで」
子供のように泣くアレックスを見ながら、ルシガは思った。
そうだよ、処女なんだよ。
昔見たAVに処女物があったな。
なんかやたらめったら優しい声で、女をなだめながらやっていたぞ。
アレだ! アレ!
ルシガは、すぐに実行に移した。
猫なで声でアレックスに話しかける。
「アレックス。お前が良いと言うまで、何もしないから近くにおいで」
「……ホント?……」
「ああ、側に来るだけだ。私が行くよりいいだろう?」
「そうしたら、嫌いにならない?」
「嫌いになんかならないさ、さあおいで」
鳥肌が立つほど優しい男を演じながら、ルシガは辛抱強くアレックスを待った。
一瞬戸惑いを見せたものの、アレックスは正座をしたまま、にじり寄ってきた。
その距離、約15cm。
――って、たったそれだけかい!
ルシガは怒り狂いそうになったが、ぐっと我慢した。
そして気持ち悪いほど微笑みながら、アレックスに言う。
「そこだと顔が見えない。お前の顔が見たいんだ。布団に上がらなくていいから、その明かりの所まで来てくれないか?」
そう言って、布団脇の蝋燭立てを指さした。
「……本当に何もしない?」
「(するに決まってるじゃないか)ああ、約束する。(嘘ぴょーん)」
アレックスは立ち上がると静々と明かりに近づき、再び正座をした。
顔を斜め下に向け、頬を赤らめる姿が蝋燭の光に揺れ、何とも言えない色気があった。
――いかん、ムラムラする。鼻血が出そうだ。
スッポンをしこたま食べたせいだろうか、ルシガの下半身は既に反応し始めていた。
今すぐ押し倒したい気持ちをぐっと抑え、ルシガはあくまでも紳士を装い、アレックスに語りかける。
「少しだけ側に行っていいか?」
「恥ずか……しい……」
「大丈夫だから」
「……少しだけなら……」
――これ、プレイと思うと楽しいぞ! そうだ、俺はAV男優なんだ。今から処女を襲うんだぞ。いや、女じゃないから処男か? まあ、どっちでもいいや。
そんなふしだらなことを考えながら、ルシガはアレックスに近づいた。
1mちょっと先にアレックスはいたが、ここで短気を起こせば先程の二の舞だ。
ルシガは左手を伸ばし、アレックスに言った。
「手を触わってごらん」
「えっ……でも……」
「大丈夫、何もしないから。(するけどな!)」
伸ばした手にアレックスの指が触れた。
――よし! 第一接触完了!
「握ってもいいか?」
「あっ。……だめ……」
「じゃあ、アレックス。お前が握ってくれ」
「……恥ずかしいもの……」
「何も恥ずかしいことじゃないさ」
――私は名優になれるかもしれんな。
そんなルシガの腹黒さを知らず、アレックスが恐る恐るその手を握った。
指の震えが、彼の戸惑いを現していた。
「ルシガの手……暖かい」
「そこは寒いだろう? こっちにおいで」
「でも……」
「怖いか?」
アレックスの目が再び潤んだ。
「怖くないから……おいで」
アレックスは指を噛みながら暫く考えた後、布団の上にあがった。
その身体は震え、今にも消え入りそうである。
ルシガはその手を握り、引き寄せた。
「あっ……」
アレックスの躰が、ルシガに倒れ込む。
浴衣越しに感じる体温は、冷え切っていた。
「こんなに冷たくなって……」
「ぁ…・いや……」
「だめだ。もう捕まえた」
ルシガは壊れ物に触るように、アレックスを抱きしめた。
傷ついた小鳥のように震えるアレックスが、愛おしくて堪らなかった。
その髪にキスをする。
頭のてっぺんから唇を、少しずつ下にさげていく。
冷たい頬に口づけた時、アレックスの躰が小さく跳ねた。
血の気を失っていた頬が、色付いてくる。
――ん、もー! 色っぽいんだからー!
はっ。い……いかん、ここで獣になっては。
「アレックス、キスしてもいいか?」
「……」
「アレックス?」
「ん……」
「いいのか?」
「……優しくなら……」
そう言いながらも、アレックスは俯いたままだった。
ルシガはその顎をそっと上げ、唇に口づけた。
震えながら硬く閉じられた唇は、それだけで新鮮だった。
舌先で上唇を舐めると、アレックスは驚いた顔でルシガを見た。
「嫌か?」
「……分からない……」
「もう一度」
今度は唇を割り、舌を進入させることが出来た。
上口蓋を舐めると、アレックスの肩がビクリと上がった。
そのまま優しく舌を舐め取り、絡める。
「ン……ん! んっ!」
胸を叩かれルシガが唇を離すと、アレックスの呼吸が乱れていた。
「どうした?」
「息ができない……」
――くぅ~っ! 可愛すぎる!
これは獣にならずに、やるのは至難の業だぞと、ルシガはこの時思った。
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