「ええ、そうなのよ。えっ? まだ女言葉になってるって? ……そうなんだ。なんだか慣れちゃって、意識しないと男言葉にならないんだ。うん、そう。明後日には帰るから。あっ、……アン。協力してくれて本当にありがとう。じゃあね」
そう言って、アレックスは電話を切った。
荷物は、ほとんどパッキングした。
飛行機のチケットも予約したので、明日の午後にはこの街を発つ。
泣くだけ泣いて、荷物を用意し終わったら、なんだか気持の踏ん切りがついたような気がした。
薔薇姫になるのも、ルシガへの恋も、どちらも決して手に入る事のない、蜃気楼の様な物だったのだ。
あんなに見事に振ってくれたルシガに、むしろ感謝したいくらいだった。
おかげでやっと現実に戻れる。
それでも病院へ行く間に感じた、ルシガの温もりや、その香りを、一生忘れる事はできないだろうう……。
ただ一つ心残りだったのは、応援してくれた白薔薇おじさんに、お礼が言えなかった事だ。
そう考えるとまた悲しくなるので、アレックスはシャワーを浴びることにした。
熱いシャワーを浴びると、辛い思いが流されて行く気がした。
シャワールームの小さな窓から外を見ると、日が暮れて夜になっていた。
『最後の夜だから、何処かに行こうかしら……』
いつもこのくらいの時間にはレッスンを終え、スタジオから出るのだが、ぐったりと疲れて、遊ぶ事なんて考えたこともなかった。
良く考えたらボストンに来て、観光すらしていない。
せめて少しでも良い思い出を残す為に、外に出てみようと思いながらシャワーを止めると、ドンドンと部屋の扉が叩かれる音が聞こえた。
「はーい、ちょっと待って―!」
毎日のうようにこの時間になるとやって来る、花屋のデリバリーが来たらしい。
退院してからの毎日、ヴァイオレットから薔薇の花が送られて来るのだ。
もらっても仕方ないので、チップを渡し持って帰ってもらっている。
アレックスは慌てて、パジャマ代わりのTシャツと短パンを着た。
髪にはまだ雫が付いているが、相手も気にはしないだろう。
1ドルを握って部屋のドアを開け「ごめんなさい、お待たせ。これチップ……」と言いかけて、そのコインを床に落とした。
そこに立っていたのは、花屋ではなく、黒のロングコートを羽織ったルシガだった。
反射的に扉を閉めようとしたが、その身体をはさみ込むようにして、ルシガが入って来た。
せっかく諦めたルシガが、再び目の前にいる。
想像もしなかった状況に、アレックスは混乱した。
「……どうして?」
やっと出てきた言葉が、それだった。
しかしルシガの手に、自分がスタジオに残してきた荷物があるのを見て、合点がいった。
「持って来てくださったんですか……ありがとうございます」
「話があって来た」
「……何の話でしょうか?」
「男と聞いて、驚いた」
「すみません……」
「言いたいことだけ言って、イギリスに帰る気か?」
「……」
アレックスの頬に、ルシガの手が触れた。
「ル……ルシガ先生?」
アレックスの心臓は、飛び出してしまうのではないかと思うほど、飛び跳ねた。
「私の気持ちは、どうなる?」
ルシガの表情は今までに見たことのないような、苦痛に満ちていた。
スタジオで見せる、あの自信に満ちた姿からはとても考えられない、戸惑いがあった。
「ゴンザレスとキスしてるのを見せられ、婚約したと聞かされて、やっと諦めたと思ったら、今度は男です? 貴方が好きでしたって、いったい何なんだ?」
「えっ?」
アレックスは驚いた。
急にその身体を抱きしめられ、息ができなくなる。
「好きだとまで言われて、男だからって諦められるか? どこまで私の心を掻き乱せば、気が済むんだ!」
ルシガは、アレックスの唇にその唇を重ねた。
それは、熱く激しいキスだった。
心まで貪り尽くされるように、アレックスの唇は強く吸われ、その舌を求められた。
「う……ぅんっ」
アレックスは思わず声を出したが、それでもルシガは求め続けた。
長いキスの後、頬と頬を重ねるようにして、ルシガはアレックスを包み込んだ。
「男でもいい。お前が好きなんだ。もう離さない!」
「……でも、先生。今日女の人と……」
「あれは急にキスされただけだ」
「私も同じです」
「えっ?」
「ヴァイオレットに強引にキスされたんです。婚約なんかもしてません」
「……そうか」
ルシガの腕に力が入り、アレックスは髪や頬、そして首筋にキスを受けた。
「ぁっ……」
首筋を吸われ、思わず小さな声を漏らすと、ルシガが魅力的な声で囁きかけて来た。
「アレックス、お前が欲しい。……いいか?」
「……はい」
アレックスは、部屋の小さなシングルベッドに、倒れ込むように押し倒された。
唇を重ね合わせていると、ルシガがTシャツを捲り始めた。
「あっ!」
その声に、ルシガがクスリと笑う。
「まだ何もしていない」
「……先生の、そんな笑った顔を見たのは、初めてです」
「そうか?」
「いつも怖い顔をしてたから……」
「練習中は、真剣なんだ」
ルシガはちょっと困ったような顔をした。
「そんな顔も初めてです……あぁっ!」
「感じるのか?」
気がつくとアレックスの乳首は、ルシガの指先に摘ままれていた。
服を捲りあげられると、桜の様に淡く色づいたその尖りを舌で転がされ、身体が仰け反った。
「やぁ……っ」
「感じやすいんだな」
胸筋を摘み上げるようにされて、乳輪ごと激しく吸われる。
「ふぅ……んっ」
アレックスは自分が、あられもない声を出しているのが恥ずかしかった。
音をたてながら吸われたそれは、微かな膨らみを帯びた。
舌の先を使われ執拗に責められて、シーツを握りしめ、声を殺すのがやっとだった。
ルシガはアレックスのTシャツを脱がし終わると、短パンに手を掛けた。
反射的にその手を、アレックスが握り締める。
「嫌か?」
「だいじょう……ぶ」
「止めるなら、今だぞ?」
アレックスは、頭を横に振った。
ルシガが短パンをずり降ろすと、下着を履いていなかった為、アレックスの分身がすぐに姿を現した。
白蝋のようなそれは、既に起き上がりかけていた。
短パンを脱がされ、その脚の間にルシガが入って来た。
腹筋の割れ目を舐められ、腰が浮いた。
その腰を掴まれ、分身を舐め上げられると、アレックスの身体がビクリと跳ねた。
「せんせい……いやぁ……」
ルシガはその腰を掴んだまま、分身を口に含み上下させた。
「あっ! おねがい……やめて……」
アレックスは懇願したが、ルシガはその口を止めてくれない。
歯を食いしばりながら恥ずかしさに耐えるていると、それが立ちあがっていくのがわかった。
やっと口を離してくれたルシガが、言った言葉は「四つん這いになって」だった。
「えっ?」
「それが一番楽だから。さあ」
「でも……恥ずかしい……」
「ダメだ。もう止めないって言っただろう? さあ、四つん這いになるんだ」
ルシガに命令調で言われると、アレックスは抗う事が出来なかった。
言われたように四つん這いになると、羞恥で白い肌が紅く染まった。
「吸いつくように綺麗な肌だ」
背中から尻にかけて撫でられ、アレックスは思わず目を瞑り、恥ずかしさに耐えた。
すると何か冷たい物が、その白桃のような丘の窪みにある、花の蕾にかけられた。
「ひあっ……!」
「力を緩めて」
「何を……? 先生?」
「ここを広げないと入らない。力を抜いて」
「や……ぁ……っ」
「大丈夫だ。私を信じろ」
「はい……せん……せい」
指先が触れると、円を描くように回されれると、蕾がほころび始めた。
指が少しづつ、中に挿って来ると、アレックスは不思議な感覚を感じた。
1本目が挿入りきると、2本目を挿れられそうになる。
「せんせ……むり……」
「力を抜いて」
そうして花が開ききると、アレックスの花芯に、ルシガのそれが触れた。
「挿れるぞ」
「っあっ! ……ああっ!」
「力を抜いて」
「ああ……うっ……っ」
「息を吐いて」
「ふぅ……。 ぁうっ!」
「もう一度」
「ふ……。 あぅっ!」
息を抜くと同時に、押し行ってくるルシガの逞しいそれに、アレックスの目から涙が溢れた。
「少し休もうか?」
「だい……じょうぶ」
「苦しそうだ」
「いや……やめないで」
「アレックス……愛してる」
「ああ……先生!」
ルシガは時間をかけて、アレックスの中にそれを全て収めると、ゆっくりと腰を動かし始めた。
ギシギシとベッドの軋む音がする。
初めは圧迫感だけだったそれが、次第に微かな疼きを感じ始めた時、ルシガの手がアレックスの前に伸びた。
「いやっ……」
「一緒に達こう」
「せんせ……はぁぅ……っ!」
「やっとお前を私の物に出来た。アレックス、堪らないよ」
激しく扱かれ、快感が前から後ろに広がった。
「ああっ! 先生っ! ……あっ……あっ」
「アレックス……」
「ん……あっ。だめ。達っちゃう」
「私もだ……」
ルシガの腰が、激しくアレックスの尻を打った。
アレックスの身体が激しく痙攣し、それを放出すると、追うようにルシガが達った。
「先生……」
「ふっ……。もう先生はよせよ」
「でも何て?」
「ルシガでいい。……おいで」
そう言われ、アレックスはルシガの胸に抱かれた。
こんな幸福感は、今までに感じた事がなかった。
「ルシガ……」
胸に頬を擦りつけながら、その名前を呼んでみる。
「ん?何だ?」
「名前を……呼んでみただけ」
「あまり可愛い事をするな。また欲しくなる」
「初めて会った時から……ずっと好きでした」
「じゃあ、片思いは私の方が先だな」
「……えっ?」
「書類審査のDVDを見た時から好きだった」
ルシガからその髪にキスをされ、アレックスの頬が赤く染まる。
「踊っている姿に、一目惚れした。まるで金色に輝く天使が、舞い降りたようだった。薔薇姫をやれるのはお前しかいないと思ったよ」
「ごめんなさい……」
「何が?」
「だってもう踊れないから……」
「ああ、その事なら理事長と話をした。最終選考は予定どおりするそうだ」
「えっ?」
「理事長から言われたよ。あのDVDを見た時から男だとわかっていた、と。気付かなかったの? ってね」
「じゃあ?」
「男がプリマドンナになっても良い時代だと言われた。明日から猛特訓だ。付いて来れるか?」
「はい!」
アレックスはルシガに抱きついた。
諦めていたルシガとの恋が実ったばかりか、プリマドンナへの道もまだ途切れていなかったのだ。
幸せすぎて怖いくらいだった。
「全部を報告したい人がいるの」
「ん?家族か?」
「それもそうだけど、白薔薇おじさんって……私をずっと見守ってくれてた人がいるの」
「……それは私だ」
ルシガが照れくさそうに言った。
「えっ?だって、おじさんって……?」
「白薔薇王子だと恥ずかしいだろう?」
「でも女子トイレや、更衣室にも置いてあったのよ」
「妹に置いてもらった」
「先生っ!」
アレックスは、ルシガの唇のキスをした。
ルシガが照れながら言う。
「先生じゃないって、言っただろう。それにまた、女言葉になってるぞ」
2人の笑い声が、ホテルの小さな部屋に響いた。
それから6日後。
アレックスは実力で、主役の座である薔薇姫役を勝ち取った。
最終審査に来た理事長であるローズ・タカトウは、息子であるルシガから全てを聞いていたようで、「公私共々、ルシガをよろしくね」と、温かい言葉を贈ってくれた。
衣装はアレックスに合わせて、新デザインになり、その担当を妹のアンがした。
バレエ界始まって以来の本格的男のプリマドンナに、話題先行でチケットが売れたが、公演が始まると誰もが、その演技に喝采を贈った。
そしてカーネギーホールでの最終日がやってきた。
「じゃあ、行っておいで」
「はい。」
今、最後の幕が開く。
そしてこの後、ルシガ・タカトウとアレックス・バジルの婚約発表が予定されていることを、関係者の数人以外は、誰も知らなかった。
ヴァイオレットは見事、失恋したのである。
了
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