昔々ある大きなお屋敷に、一人の青年が住んでいました。
切れ長の瞳が印象的な美丈夫でしたが、早くに父上と死に別れ、可哀想に思った母上が甘やかして育てたので、ずいぶんと我が儘な性格になってしまいました。
その上侯爵家の一人息子として、幼くして主となったので、ひどく高飛車でした。
青年の本当の名前は『ルシガ』でしたが、そんな性格だったので、みんなは陰で彼のことを『ツンデレラ』と呼んでいました。
そんなある日――
「なんだと! 聞いてないぞ、そんなこと!」
ツンデレラの怒声が、屋敷中に響きました。
「でも相談なんてしたら、あなたは反対してたでしょう?」
「いい年して、再婚だなんて……何を考えてるんだ!」
そうツンデレラが言いかけたとき、部屋の扉が開きました。
現れたのは子豚が三匹……と一瞬間違うような、ふくふくとした親子でした。
「なんだ、このちんまくて、コロコロしたやつらは!」
「これ、失礼な。貴方の義理のお父様になる方と、弟達よ」
「冗談じゃないぞ!」
「そういうと思って、もう結婚式は済ませたから」
さすがツンデレラを生んだだけあって、母上もなかなかの強者だったのです。
「なんだとー!」
「おーほほほほ」
高笑いながら立ち去る母に向かって、ツンデレラは
「畜生! 私は認めないぞー!」と叫んだのでした。
さて、新しくやって来た家族は、みんな良い人でした。
そんな三人をツンデレラは、父親をブー、上の弟をフー、そして下の弟をウーと呼んで、下僕のように扱いました。
丁度ツンデレラの暴君ぶりに、屋敷中の使用人がやめていったので、仕事はたっぷりあります。
ツンデレラは母上の目を盗んでは、三人を扱き使っていたのです。
「ブー、床にほこりが溜まってるぞ。こらフー、なんだこの食器の洗い方は。おいウー、窓ガラスが曇ってるじゃないか!」
ところがある日徒然、母上が亡くなってしまいました。
それと同時に、義理の家族達は態度が一変……と思いきや、ブーもフーもウーもみんな本当に良い人で、今までどおりツンデレラに尽くしてくれました。
「お前らなんかに、感謝なんかしてないんだからな!」
そう言いながもツンデレラは、自分も家事の手伝い始めました。
「ルシガや、手伝ってくれてありがとう」と言う義父に
「馬鹿野郎、手伝ってるんじゃないぞ。洗濯は身体に良いからしてるだけだ! ほら、洗い物を出せ」そう言うと、ツンデレラは洗濯を始めました。
しかし、暫くすると腹が立ってきました。
「なんで私が洗濯をしなければならないんだ。こら、ブー。お前がしろ!」
「わかったよ、ルシガ。お前は休んでおいで。後は私たちでやるから」
義父はそう言うと、あかぎれができた手で寒空の下、洗濯物をごしごしと洗っています。
義兄弟達も手伝って洗濯物を干してる中、 ツンデレラは「やれやれ大変な目に遭った」と言いながら、暖炉にあたりながらホットショコラを飲んでいました。
そんな日々が続いたある日、お城から使いがやって来ました。
「ルシガや。お城から手紙が届いたよ」
義父は息を切らしながら、駆けてきました。
ツンデレラは手紙を受け取ると、封を切り、読み上げました。
「なになに……城で、姫の婿を決める舞踏会があるから来いだと? 私を呼びつけるとは生意気な」
そう言うとツンデレラは、招待状を放り投げてしまいました。
「ルシガや、行かないのかい?」
「何だ? 行きたいのか?」
三匹の子豚は頷きました。
「なら、お前らだけで行け」
「本当に、いいの?」
上の弟のフーが、訊ねました。
「本当だ」
「嘘じゃない?」
下の弟のウーが、再度確認しました。
「しつこいな。行きたいなら勝手に行けばいいだろう!」
「ありがとう、ルシガ!」
三匹の子豚は、大喜びしてお礼を言いました。
この屋敷に来て以来、三匹は舞踏会はおろか、出かけることすらなく下働きをさせられていたので、嬉しくてたまらなかったのでした。
さて舞踏会当日がやって来て、三匹は喜々として出かけていきました。
おめかしした親子を、ツンデレラは機嫌良く見送ったものの、一人になるとだんだんと腹が立ってきました。
「なんで私が、一人で留守番をしなければならないんだ!」
ツンデレラは、仲間はずれにされた気がしましたが、それは気のせいでした。
自分で許可を出したのを忘れたかのように、ツンデレラは逆ギレしました。
「畜生、誰が留守番などするものか。私も舞踏会に行ってやる!」
ところがツンデレラには馬車がありませんでしたし、新しい衣裳も用意していませんでした。
当時、舞踏会で同じ衣裳を二回着るのは、恥ずかしいことでした。
しかしツンデレラは、障害があると燃えるタイプだったのです。
行けないかと思うと、ますます行きたくなる性格なのでした。
そこでツンデレラは思いつきました。
森には『心の綺麗な人を助けてくれる妖精』がいるのです。
その妖精に助けてもらおうと思ったのです。
「よーし、妖精を捕まえに行くぞ!」
そう言うと、ツンデレラは森へやってきました。
妖精が通りそうな場所を見つけると、そこにネズミ取りを置き、彼らの大好物であるお菓子を仕掛けました。
しばらくすると『バッチーン』と言う音がしたかと思うと「助けて~」って言う悲鳴が聞こえてきました。
ツンデレラが罠を見ると、そこには罠に脚を挟まれた可哀想な妖精がいました。
「そこのハンサムなお兄さん、助けてください~」
「助けて欲しかったら、パーティーへ行く準備を手伝え」
「ええ? 妖精は、心の綺麗な人しか助けないんですよ?」
「バッチリじゃないか」
「貴方の性格の悪さは、妖精界でも評判です」
「なんだと~?」
ツンデレラは、罠を指でぐりっと押しました。
「痛いっ! 助けて~!」
「助けて欲しかったら、手伝え」
「い……嫌です~」
「これでもか?」
ツンデレラは、再び罠をぐりぐりしました。
「んぎゃ~っ! わ、わかりました! お手伝いさせていただきます」
「よし、では馬車を用意しろ。従者も一緒にな。それから衣裳も最新流行のカッコイイやつにしろよ」
「その前に罠を外してください。脚が折れちゃいます~」
「外したら逃げるだろうが。まずは願いを聞いてもってからだ」
「あなた、本当に性格が悪いですね」
ツンデレラは、三度罠をぐりぐりぐりと押しつけた。
「ぎゃ~。わかりました! 馬車に従者に衣裳ですね。おまかせください~!」
そう言うと妖精は、銀色の粉を ルシガにかけました。
するとそれまで着ていた普段着が、立派な衣裳に替わりました。
「そこに咲いている野薔薇を取ってください。それからあそこにいる蟻六匹と、キリギリスもね」
妖精がそれらに銀の粉をかけると、薔薇は深紅の馬車に、六匹の蟻は黒馬に、そしてキリギリスは従者になりました。
「よし、これで舞踏会に行けるぞ!」
「ああ、行く前に罠を外してくださいよ~」
「お前はまだまだ役に立ちそうだが……まあ、仕方ない。約束だからな」
そう言ってツンデレラが罠を外すと、妖精は飛び立ちながら叫びました。
「よくも酷い目に合わせてくれましたね! これはお返しです!」
と言いながら、ツンデレラの股間に銀の粉をかけました。
「な……何をした? 股間が重いぞ?」
「ふふふん。今、パンツをガラスにしてやりました。これで舞踏会で楽しむことは出来ないでしょう」
「馬鹿野郎。こんな物脱いでやる」
「あ、それ、人から脱がしてもらわないと、脱げませんから」
「なんだと?」
「しかも、ガラスのパンツ以外の魔法は、十二時を過ぎると解けるようになってますからね。あーはははは!」
妖精は高笑いをして去って行きました。
「くっそー! 性格の悪い妖精め!」
ツンデレラは自分のことを棚に上げ、妖精の悪口を言いました。
ガラスのパンツは重く、また割れたら怖いという恐怖感から、歩くのがやっとで、踊るどころではありません。
これでは舞踏会を楽しめない……と思った直後、ツンデレラは閃きました。
「な~んだ。ナンパをして、女にパンツを脱がしてもらえば良いんじゃないか!」
ルシガは名案に満足すると、従者に言ってお城へと馬車を走らせました。
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