二月十四日は天の神ムルティウスが、地の神ユシーズに、白鳩に恋文を持たせた送ったと言う創生記から、『恋人たちの特別な日』とされている。もともとは『ラブレターの日』として手紙を送り合っていたのが、時代が進むにつれてカードの日、贈り物の日、そして現在は恋人同士でデートをする日『エタニティーラブディ』とその形を変えている。
2人がその日やって来たのはケマルランド。ケマルと言うハムスターのキャラクターがフューチャーされた、この国で一番の人気遊園地である。
入場門前にやって来て、ルシガが文句を言った。
「なんだ、この人の多さは。今日は平日だろう?」
「だって今日はエタニティーラブデイだもの」
「なんだとー? 騙したな。……帰る」
立ち去ろうとするルシガの腕を、アレックスが掴んだ。
「何言ってるの。カレンダーを意識しない生活が悪いんじゃない。さあ、行くわよ」
アレックスはルシガを引っ張ると、入場門に向かった。
ケマルランドに入ると、アレックスは狂喜乱舞した。
「ルシガ見て! どこもここもケマルちゃんばかり!」
「ケマル? あの大福の事か?」
ケマルはハムスターなので、大福餅のようなキャラクターだ。その大福が、遊園地のいたるところに描かれたり、置物になって置かれたりしている。
「毛だらけで丸いからケマルなのか?」
「さあ、わかんないわ。ハムスターだからそうなんじゃない? それよりどこで写真を撮る?」
ケマルランドは記念写真スポットがいっぱいあるので有名で、写真好きのアレックスには堪らない場所だった。
「写真は1枚しか撮らないからなっ!」
対するルシガは写真嫌いである。アレックスは一瞬「ええ~?」と言ったが、ここでルシガを怒らせてはまずいと思った。今回の目的はあくまで「公園内でセックスすること」なのである。
「わかったわ。1枚だけね」と言うアレックスに「やけに素直だな」とルシガは訝しがる。
「じゃあ写真はケマル宮殿の前で写すとして、アトラクションは何に乗る?」
「船以外なら何でも乗れる」
「ええーっ? ボートは?」
「波がなければ大丈夫だ」
「良かった。ケマルボートに乗りたいもの。1つだけアトラクションの予約が出来るけど、何がいい?」
「お前が乗りたいのでいい」
「じゃあ、一番人気のケマルの宇宙大冒険にしましょう。後はゆっくり……楽しみましょうね。んふふふ」
2人がアトラクションを予約に行くと、既にそこは人でいっぱいだった。並んで取れた時間は二時。今が十一時なので、園内を回る時間はたっぷりあった。
『ケマルパレードをみたいけど、ここはぐっと我慢して、その時にセックスよね』アレックスは焦点を、十二時半からあるケマルパレードの時間に合わせた。パレードの間アトラクションは人が少ないだろうから、どこかでやれると踏んだのだ。
「とりあえず、ケマルボートにでも乗りましょうか?」とルシガを誘い、アレックスはケマル池へと向かった。
ケマル池に来ると、水の中に大きな大福がぷかぷかと何個も浮いていた。ハムスターの形を模っているので、変形半円ドームの様な形なのだろう。
順番が来ると、アレックスは大喜びした。
「ラブラブケマル号よっ!」と言うと、ルシガがポカンとしている。
「ほら、目がハートになってるでしょう。これに乗ると愛が成就すると言われているの」
「ふーん」
「みんな乗りたがるんだから。アタシ達ラッキーだわ」
そんな会話をしながらボートに乗ると、2人は脚でボートを漕ぎ始めた。
「んふふ。楽しーい」アレックスが上機嫌でボートを漕いでいると、池の端に来ると木々で影になった所から、変な声が聞こえてきた。
「あ~ん。うっふ~ん。いや~ん」女が悶える声だ。
見ると木陰の泣き虫ケマル号が激しく揺れている。アレックスの目が煌めいた。
ハンドルを切り木陰で向かおうとすると、ルシガがもう一方のハンドルで激しく抵抗した。
「お前の考えていることは分かってるぞ!」
「いやん、行かせてルシガ。あそこでセックスしましょう!」
「馬鹿、何考えてるんだ」
「お願い。一生のお願いだから」
攻防の末、ルシガ側のハンドルが取れてしまい、アレックスがボートの操縦権を握った。
丁度その頃に、泣き虫ケマル号のカップルは事が終わったらしく、木陰から出て行った。
「やったわ。今日はラッキー続きだわ!」と言うと、アレックスは漕いだ。漕いで、漕いで、木陰まで漕ぎ着いた。
「馬~鹿。こんな所に来たって、絶対にせんぞ」
「実力行使に決まってるじゃない!」
「やめろ。こらっ!」
アレックスはルシガを押し倒し、ベルトを外そうとした。全力で抵抗され、アレックスは特別警察習った技を使うが、対するルシガは力が強かった。そこでこんなこともあろうかと隠し持っていたナイフを出す。
「何考えてるんだ? お前は? 待て、落ち着け!」
「ベルトを切るだけよ。おとなしくしてて頂戴」
悪魔のような微笑みを浮かべるアレックスを、ルシガは手で止めると……
「切られるくらいなら、自分で外す」
と言ってベルトを外した。
それを見てアレックスは、いそいそと座ったままズボンを脱ぎ始めた。その瞬間、ルシガがアレックスに飛びかかった。
「馬~鹿、こんなところでするか!」
アレックスのハンドルを奪い、ボートを動かそうと揉み合っているうちに、ボートが大きく揺れたかと思うと、転覆した。
慌てた2人が岸に泳ぎ着くと、警備員が腕を組んで待ち構えていた。
「お客さん達、何やってたんですか?」
「何って……」2人は口ごもる。
「ズボン脱げてますよ」
「いやん」
アレックスがシャツで前と後ろを隠した。
係員はビッグザイズのバスタオルを渡してくれながら、2人に言った。
「全く困るんですよね。こういう事をされると」
「スミマセン……」
アレックスは謝るしかなかった。
「着替えの服はご用意しましたが、うちはケマルグッズしかありませんからね」
警備員室でストーブに当たる2人に、警備員が服を渡した。
「ありがとう」と答えるアレックスに
「あ、お礼はいりませんよ、料金は頂きますから。もちろん壊したボートの代金もね。特注品だから高いですよ~!」と何故だか嬉しそうに、警備員は言った。
手渡された領収書には、目の玉が飛び出るような金額が書かれていた。
「私は知らんぞ。お前が払えよ」と言うルシガに
「アタシのお財布はズボンごと池の底よ。もしあっても、アタシのカードじゃ支払えない金額だわ」アレックスは言った。
ルシガはアレックスをジロリと睨むと、濡れた財布から自分のカードを出し「これで」と言った。
2人は身体を乾かし、服を着替えた。ケマルトレーナーに、ケマルパンツ、ケマルスニーカーに、ケマルダウンジャケット。すべてに大きな大福餅が描かれていた。お洒落なデザインだが、キャラクター物には違いない。
それでも「いやん、ペアルック~」アレックスは嬉しかった。ルシガとまさかオールペアルックを出来るなど、思いもしなかったからだ。
もちろんルシガは「私の美意識が……」と不満たらたらである。
警備員室を出ると、十二時半になっていた。遠くでパレードの音が聞こえる。アレックスは胸が高鳴った。何が何でもパレードの間にセックスしなければならない。
ルシガの手を引っ張ると、アレックスはパレードとは逆の方向に走って行った。
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