【はちみつ文庫】 白い薔薇は夜散らされる 1 【R-18】
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□ 白い薔薇は夜散らされる  □

白い薔薇は夜散らされる 1 【R-18】

これは夢か幻か。
太陽王と呼ばれる君主に、統治されている国での物語。




一人の青年が屋敷のバルコニーに立って、暮れゆく夕日を見ていた。
照り出された横顔は愁いを帯びて、今にも光に溶け出してしまいそうだった。
鳥が群れをなして森へ帰っていく姿を見て、青年は一つ溜め息をついた。

――あと二十日間

それが青年に残された自由な時間だった。
二十日後の誕生日が来れば、青年はある好色な男爵の愛人になる。
この愛人契約は、青年が十三歳で父の伯爵爵位を継いだときに決まった。
父の作った莫大な借金の肩代わりをしてくれた叔父が、青年を男爵に売ったのだ。
自分の爵位より下の男爵に買われる……。
それは昨今では珍しいことではなかったが、プライドだけしか残ってない貴族の彼を傷つけるには十分過ぎるものだった。

男爵には少年愛の趣味はなく、その愛人契約は彼が十八歳になるまで待たれることになった。
その誕生日があと二十日後に来る。
青年は、寒気に両肩を抱えた。
ジャケットの袖からブラウスのレースが零れ落ちる。
今となっては、このジャケットもブラウスも、全て男爵から借りた金で賄われていた。
彼の借金は増えることはあっても、減ることはない……そう言う仕組みになっていることを、世間知らずの彼は知らなかった。

コンコン。

部屋を叩く音に返事をすると、叔父が部屋に入ってきた。
寝定めするかのように部屋を見渡すと、突き刺さるような鋭いような眼差しを青年に向けてきた。
痩せて背が高く、鷲鼻に落ちくぼんだ瞳は、爬虫類を思わせた。

「アレックス、今夜はブグロー男爵のパーティーに出かけるぞ」

その言葉に青年――アレックスは心臓を凍らせた。

「すぐに用意をしなさい。美しく着飾るのだよ、分かったね? アレックス」

有無を言わさぬ口調でそう告げると、叔父は出て行った。
一人部屋に残されたアレックスの顔は、逆光の中、ただ小さく震えながら佇んでいた。




楽団の演奏の中、人々の笑い声が聞こえる。
何個もの巨大なシャンデリアに蝋燭が灯され、大広間を照らす中、人々は笑いさざめき、美酒美食に酔いしれ、ダンスを楽しんでいた。

アレックスが叔父に連れられ会場に足を踏み入れると、その姿に人々の視線が釘付けになった。
彼は純白のビロード生地に金の刺繍を施したジャケットとベストに、何重ものレースの付いたシルクのブラウスを身につけていた。
人々を引きつけたのは、その身なりだけではなかった。
髪は灯りに照らされ金色に輝き、透けるような白い肌に、南国の海のような透明な青い瞳が輝いている青年の姿は、一枚の絵画のようだった。
ツンと尖った鼻先を辿れば、薄く色付いた唇が可憐に咲いている。

「まるで大輪の白薔薇のよう」
「ブランシェール伯爵、あの身のこなしの美しいこと!」

人々は溜め息混じりに賛美した。

アレックスの叔父はその高い鼻をいっそう高くして、アレックスを引き連れ、その家の主の元へ挨拶にいった。
主であるブグロー男爵は、恰幅の良い腹を撫でながら満足げに頷くと

「良くおいでくださいました。さあさあこちらへ」

と、彼らを奥の間へ誘った。




部屋の扉を閉めると、ブグロー男爵は卑猥な笑顔でアレックスを見つめながら言った。

「さあブランシェール伯爵、お躰を見せてもらいましょうか」
「……カーテンを閉めてください」
「ふふふ、よろしいですよ。今は貴方の言うことを聞きましょう。だが我が家に来ていただいた暁には、そのような我が儘は許しませんからな」

いくら微笑んでいても、男爵の瞳は笑ってはいなかった。
横に広がった体型と そのあばた面から、他の貴族から影で『ヒキガエル』と呼ばれている男爵は、カーテンを降ろすと、再びアレックスに促した。

「さあ、ブランシェール伯爵。お躰を……」

アレックスは男爵と叔父が見守る中、服を一枚一枚脱いでいった。
ジャケットとベストを脱ぐと、彼の背をより高くしていたハイヒールを脱ぎ、ズボンを下ろす。
ブラウスを脱ぎ終わると、わずかに残った下着に手を掛け、それを脱ぎ去った。
何度も繰り返されている行為なのに、未だに嫌悪感がある。
いや、月日を重ねるに付け、その嫌悪感は高まっているように思えた。

「おお……なんと美しい…・。さあ、この灯りの下でようく躰を見せておくれ」

前を隠すことを許されぬアレックスは、ただ顔を横に背けて恥ずかしさに耐えた。
ヒキガエルのような男爵は、鼻息が掛かるほど彼に近づき、舐めるようにその身体を姦視した。

灯りの下にたゆたう白い裸体は、大理石のように艶めかしく輝いている。
ささやかに咲いた乳首や、逞しい鞘を食い入るように見ると、男爵は叔父に確認をする。

「色は付いてないようですな。約束は守っていただけていますかな?」
「はい。他の物を近づけないのはもちろん、自慰もさせておりません」




アレックスがブグロー男爵と愛人契約を結んだとき、一つの条件を飲まなければならなかった。
それは一切の性行為を、彼が十八歳の誕生日になるまで禁止することであった。
男爵は時折こうしてアレックスを呼び出し、その躰に色が付いてないかどうかを確認する。
叔父に厳しく監視されているアレックスは、自分の物に触れることすら許されなかった。
もし一度でも触れようがものなら、特性の貞操帯を身につけさせると脅されていたのだ。
それにより彼はこの年にして、夢精以外でその精を吐いたことがなかった。

男爵は一八歳で手淫すら知らぬ、世にも希な高貴で美しい男を手に入れることに固執していた。
田舎男爵、ヒキガエル男爵とさげすまれ、商売の才でのし上がってきた男の意地のようなものだった。

子供や少年で手つかずな者を探すのは容易い。
しかし美しく育った青年で、無垢な者など手に入る時代ではなかった。
ましてやそれが高貴な身分であれば、尚更なことだった。

それを手に入れ、犯すことを想像するだけで、ブグロー男爵は恍惚とするのだった。

「肝心な尻も見せてもらおうか」

そう言われると、アレックスはテーブルに手を突き尻を差し出さなければならない。
彼にとって一番屈辱な時間だった。

「さあ、ブランシェール伯爵」

促されてアレックスはテーブルに手を突いた。
脚を歩幅に開き、腰を突き出すと、男爵は顔を寄せその尻の肉を両手に掴みと、蕾が見えやすいように横に開いた。

アレックスは、唇を噛みその恥辱に耐えた。

「なんと清らかな……あとほんの二十日間だ。私を待っているのだよ。ぐふふふ……」

男爵が、淫靡な笑い声を漏らしたその時――

バーンと言う派手な音と共に扉が開かれ、笑いじゃれ合いながら一組の男女が入ってきた。
アレックスは瞬間的に躰ごと振り返り、その男と目が合った。

男はニヤリと笑うと、大げさに男爵に詫びを言った。

「これは失礼。鍵が掛かっていなかったので、入ってしまいました」
「無礼者! 私の部屋に何のようだ?」

慌てふためく男爵に、男は大げさにお辞儀をすると、芝居がかった口調で続けた。

「こちらのご婦人と秘密の話しなぞをしようと思い部屋を探したものの、どの部屋も塞がっておりまして、迷い込んでしまいました。失礼のほど、どうかお許しを……」

そう言い身を起こした男は、遊び人の風情がありながらも、何処かに気品を感じる美男だった。

切れ長の瞳は濃紺で、高い鼻梁と形の良い唇がバランス良く配置されており、その顔の周りを漆黒の長髪が波打ちながら夜の海のように輝いていた。
男であるアレックスが「自分もこんな男であれば」と見惚れるほどの男っぷりだった。

そんな男の前に一糸まとわぬ姿でいなければならぬ事を、アレックスは恥じた。
男はそんな彼の心を見透かしてか

「これは、お取り込み中失礼した。ではごゆるりと……」

と、言葉を残すと、部屋を出て行った。

「全く、なんと失礼な男だ。さあさあ、ブランシェール伯爵、服を着ておしまいなさい」

そう男爵から言われても、それが耳に届かぬほど、アレックスは彼の出て行った扉を凝視していた。




男女は部屋から出ると、すぐさま身体を離し、庭に向かった。
周りに誰もいないのを確認すると、男が女に話しかける。

「全く、こんな手伝いは二度とせんぞ」
「ふふ。君のおかげで部屋の様子をじっくり見られたよ。感謝する」
「あの男は誰なんだ?」
「おや? 君が男など気にするとは珍しいね」
「茶化すな。誰だ?」
「アレックス・フランシス・ド・ブランシェール。借金の形に、ブグローとは愛人契約を結ばされたらしい」
「結ばされた?」
「ああ、一緒にいた叔父がくせ者で、彼をはめたようだよ。親の借金のふりをして、莫大な金額で彼をブグローに売ったんだ」
「……」

男は、先程自分が乱入した部屋を見た。
その横顔を見た女――実は男――の表情が少し曇ったのを、夜の闇がかき消していった。



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Date:2011/04/22
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