【はちみつ文庫】 白い薔薇は夜散らされる 12 【R-15】
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□ 白い薔薇は夜散らされる  □

白い薔薇は夜散らされる 12 【R-15】

「ルシガ! ……ルシガ、助けて!」

アレックスは再びルシガの名を呼んだ。
ズボンを脱ぎ、醜い下肢をさらけ出し、手に吐いた唾でその不格好な物を湿らせていた男爵の眉が上がる。

「ルシガだと? それがお前の男の名か?」

アレックスは涙で顔を歪ませ、男爵の問いには答えない。
歯を食いしばり、屈辱から逃れようとするその顎を男爵は掴み憎々しげに言い放った。

「この売男が! その花弁のような唇で他の男の名を呼ぶか!」

男爵は捲れ上がったがま口のような唇を、アレックスに押しつけてきた。
頬を締め上げられ開いた唇の中に、男爵の舌が強引にねじ込まれていく。
生臭い息と粘り着くような唾液が、ざらついた舌と共にアレックスの口を蹂躙する。
熱い鼻息を漏らしながら、満足げにその目を細めていた男爵の顔色が変わった。

「ぐぎゃ~っ!」

潰された蛙のような声を上げ、アレックスから身を離した。

「痛いっ!痛いっ!」

唇を押さえる男爵の手の隙間から、赤黒い血が流れ落ちる。
彼をを押さえていた叔父の手が緩むと、アレックスはベッドを降り扉に向かって走った。
しかし扉にたどり着いても、鍵をかけられた重厚なそれはびくともしない。
アレックスは身体ごとぶつかり、拳で叩き、そして叫んだ。

「開けて! ここから出して!」

しかし無情にもその声に返事はなかった。

「ここは私の屋敷だぞ。誰が助けに来る?」

グブロー男爵の低い声にアレックスは振り返った。
唇の血を拭いながら上目遣いにアレックスを見る男爵の目には、もはや怒りの影はなかった。
この男本来の冷酷で残忍な眼差しに、アレックスの背が凍り付く。

「可愛いアレックス……さあどうやってお前を可愛がってやろう。異国の黒い巨人の男根で三日三晩掘り尽くした後に、薬づけにして場末の男娼館へでも売り払ってやろうか?……いやぁ、それじゃぁ面白くない。……そうだ。馬がいい」

男爵の唇が醜く歪み瞳がギラリと輝いた。

「牝馬を孕ませるのに使う当て馬だ。行き所のない精を、お前の後孔にたっぷりと注ぎ込んでやろう。……ぐふふふ……奴らは気が荒いからな、立派な逸物がお前の内臓を突き破るだろう。なぁに、心配することはない、懇ろに葬ってやる。……だがなアレックス、墓掘り男は死人を犯すのが唯一の楽しみだ。綺麗なお前は死んでからも男達の慰み者になるのだ」

さすがの叔父も真っ青になり、手を揉みながら口を挟んだ。

「い……いくらなんでもそれは……」

男爵は一別すると鼻を鳴らして言った。

「……ほう。ではお前に支払った前金を今すぐ返して貰おうか? それともお前が身代わりになるか?」
「そ……そんな……。どうかアレックスの躰を男爵様がお楽しみください。いかようなことでもさせますので……」
「だめだ!」

声が雷のように響いた。

「もうこいつに用はない」

この男の真の怖さを知る叔父は、青ざめた顔で口をつぐんだ。
男爵はアレックスに不気味な笑をおくりながら穏やかな口調で命じる。

「さあアレックス、服を着なさい」
「……い……いやっ」

アレックスは気がついたら床に座り込んでいた。
歯がカチカチと鳴り、全身の血が凍り付いたように動けない。
そんなアレックスを見下しながら男爵は声を荒げた

「ならば裸のままで良い。警備の者、中に入れ! 厩に行くぞ!」

その時だった。
厚い扉の向こうから声が聞こえた。
靴音を鳴らしながら誰かが近づいてくる。

「おやめください、デュフォール侯爵様! ご主人様は大切な商用で……」
「関係ない!」
「どうぞ、どうぞお引き取りを」
「私に触れるな!」

―――ルシガ!

アレックスの胸が高鳴った。
例え微かな声でも、愛する人のそれを聞き間違えることはない。

「ルシガ! 助けて! ルシガー!」

アレックスは力の限り扉を叩き、叫んだ。
しかしその声を遮るように剣を抜く音が聞こえた。
表ではグブローの警備兵がこの扉を守っているのだ。

「たとえ侯爵様と言えど、この中にお入れすることは出来ません」
「ほう。では若き伯爵が陵辱されるのを黙って見過ごせというのか?」
「この中にはそのような方はいらっしゃいません」

ルシガの名を呼ぼうとするアレックスの口を男爵が押さえ込んだ。
叔父に羽交い締めにされ身動きが出来ない。

―――ルシガ! 僕はここにいる!

声にならぬ叫びが届くことを祈った。

「なるほどな。ならば仕方ない」

ルシガは小さなため息をつくと、手に持った書状を広げ言い放った。

「王命である! ブグロー男爵は密輸、そして阿片売買の咎により財産没収、爵位剥奪! 国王陛下の兵が来るまで蟄居せよとの仰せだ!」

警備兵は顔を見合わせた。
隊長らしき者がルシガに問いかける。

「そのような書状を、何故あなたお一人でお持ちになったのですか?」
「兵が来るまで待つ時間は無いのだ。……わかるだろう?」

部屋の中からグブローの声が響く。

「ええいっ! そんなものは偽物だ! その男を切り刻んでしまえ!」

主の声に反射的に警備兵が剣を構える。
ルシガは剣の己の鞘を一撫ですると、小さく笑い口を開いた。

「今ここにいるのは4人。そのうち1人は使い物にならず、他の2人はそこそこ。私とそれなりに戦えるのは隊長、君だけだな」
「……」
「4人まとめてかかってくれば勝算はあるが、隊長殿は卑怯なことがお嫌いのようだ。……どうする? 君の騎士道に反した行いをする男にもう義理はあるまい」

対峙しただけで、ルシガは警備隊長の人となりを見抜いたようだった。
一瞬の間を置いて警備隊長が剣を納めると、息をのみ見守っていた者達もそれに習いルシガに道を譲った。

「デュフォール侯爵様、この扉は特別製です。鍵も特注鍵職人を呼び鍵を開けさせない限り外からは開くことはありません。」
「問題ないさ」

ルシガはそう言うと細い針金を出し、いとも簡単にその鍵を開けた。





重い扉が音を立てて開いくと、アレックスの瞳にルシガの長身が映った。

「お前のこんな姿を見るのは2度目だな」

そう言うルシガの笑顔にアレックスはほっとした。
首にはグブローの剣が向けられ身動き一つとれないが、もう怖くはなかった。
ルシガがいる……それだけで十分だった。
しかしグブローはアレックスを楯に逃げようとしていた。

「ち……近づくな。近づけばこいつの命はないぞ! 私は逃げる! こいつを人質にして逃げるんだ!」
「ほお……どこへ行くつもりだ?」
「私には船がある! 船で異国に逃げる!」
「……お前の船は沈んだ」
「何だと?」
「陛下の部隊の砲弾で見事に破壊されたよ。炎を上げ沈んでいった」

呆然としたグブローの隙を突いて、ルシガは素早くナイフを投げた。
ナイフは手首に突き刺さり、剣がカランと音を立てて落ちる。

「アレックス来い!」
「ルシガ!」

アレックスはルシガの胸に飛び込んだ。
懐かしい香りが彼を包む。
たった半日なのに何年も離れていたような気がする。
しかし再会を喜ぶにはまだ邪魔者が残っていた。

「船が……私の船が……」

呆けたように座り込むグブローを見下ろし、ルシガは言う。

「あの陛下が船を沈めると思うか? 没収して使うに決まってるじゃないか」
「なんだと? 貴様、嘘をついたのか?」
「商売男爵が、こんな簡単な嘘に騙されるとはな」
「くそうっ!」

剣を拾おうとするグブローの手を、ルシガの靴が踏みつける。

「お前をここで殺しても良いが、それでは亡き友も浮かばれまい。叩けば誇りがいくらでも出て来るだろう。さて何年の刑が課せられるかな。百年? それとも二百年? ……死んで骸になっても牢獄で過ごすがいい!」

絶望の叫び声を上げる男爵の耳に、国王の兵の足音が聞こえたかどうかは定かではなかった。





駆けつけた兵に連行されるグブローを見送ると、あの蜥蜴のような叔父がルシガにすり寄ってきた。

「いやぁ~、よくぞ大切な甥を良く助けてくださった! デュフォール侯爵家と言えば名門中の名門。アレックスをこれからもどうぞよろしく頼みますぞ」

抜け目なく取り入る姿にアレックスは嫌悪を覚えたが、ルシガはにこやかに対応する。

「アレックスの叔父上殿ですかな? このような所にいらっしゃってよろしいのですか?」
「いや! 私はアレックスを救うためにですな……」
「いえ、そうではなく……お屋敷に怪盗ヴァイオレットが現れたと聞きましたが?」
「へっ?」
「何でもあなた様の部屋を荒らしたそうですよ」
「な……なんですと! し……失礼いたす!」

岩場に蜥蜴が逃げ込むような走り方で飛び出していった叔父の後ろ姿に、アレックスは声を出して笑った。

「今のも嘘?」
「いや、本当だ」

その答えに、アレックスはどう返していいかわからなかった。

「叔父上はお前の財産を横取りしてたんだよ。宝石や金貨までたんまりため込んであったそうだ。それをお前の元に返す為に……アーロンがやってくれた」
「彼が……」
「アレックス、お前に話しておきたいことがある。私とアーロンとは……」
「もう、いいんだ」

言葉を遮られ戸惑うルシガの瞳を真っ直ぐに見て、アレックスは言葉を続けた。

「僕はルシガを信じる」
「……アレックス」

腕を引き寄せられ、息も出来ぬほど抱きしめられた。
ルシガの温もりが服の上からでも感じられ、アレックスはその厚い胸に顔を埋めた。

「アレックス、愛してる」

一番聞きたかった言葉に涙が溢れる。

「僕が先に言うつもりだったのに……」

アレックスはルシガの首に腕を巻き付け、唇を重ねた。
ただ互いの温もりを感じ合うだけの優しい口づけが、むさぼるように激しくなっていく。
アレックスは甘い吐息を漏らし唇を離すと、ルシガにしがみつきささやいた。

「ルシガ、愛してる。……早くここから僕を連れ出して」

この忌まわしい場所から出て、ルシガの愛を受けとりたかった。
ルシガはアレックスの金色の髪を撫でながら、おもむろに上着から一枚の紙を取り出した。
それはアレックスがグブローと交わした契約書だった。
アーロン救出時に、ルシガが金庫から盗み出していたのだ。
ルシガはそれをアレックスに手渡し、静かに言った。

「さあ破いて」

自分を縛りつけていた契約書が、己の手によって2つに裂けていく。
なんとあっけないことだろう。
ただにの2片の紙になったそれを、室内に灯された蝋燭の炎で燃やす。
黒い煙になって消えて行くそれをアレックスはじっと見ていた。

「もうお前は自由だ。誰にも縛られることはない。もちろん私にも」

少しおどけて言うルシガに、アレックスは言った。

「新しい契約書を作って貰おうかな」
「そんなのは必要ない」
「どうして?」
「もう離れられないだろう?」
「ずっと一緒?」
「ああ、ずっと一緒だ。もう二度とお前を離さない」





青白い月に誘われグブロー邸の庭に出ると、灯り一つない木々の中で白い薔薇だけがその光を吸って美しく輝いていた。
薔薇の芳醇な香りに包まれ、ただ2人で並んで歩く……それだけで幸せだった。
アレックスがふと思い出したように言う。

「僕、……さっき笑った」
「ん?」
「叔父上が出て行くとき声を出して……あんな風に笑ったのって、何年ぶりだろう?」
「もういいじゃないか。」

ルシガはアレックスの肩に手を回し抱き寄せる。

「これからいくらだって笑えるさ」

一瞬吹いた風が薔薇の花を揺さぶり、散った花弁が闇夜に舞った。
まるで2人のこれからを祝福するかのように。





END




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Date:2012/08/27
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Comment:3

Comment

* R:名無しの一読者様

最初から「白薔薇~」を読んでくださってたなんて、感激です!
最終話、本当に長い間お待たせして申しわけありませんでした。
いつも心の中に「更新のこと」はあったのですが、諸事情によりこんなに遅くなってしまいました。
最終話、気に入っていただけたようでよかったです^^
パピエン万歳!ですよね~。
コメントありがとうございました!!!!!
2012/08/28 【ねむりこひめ】 URL #LkZag.iM [編集] 

* 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます
2012/09/05 【】  # 

* Re: 鍵コメH(笑)さま

うおおおおおおおおおっ!
覚えてます!覚えてますよ~!
夜空に輝くh様ですね~~~~!

最終話、たどり着いて頂けて本当に嬉しいです。
もう何人もの方から「完結させてくれてありがとう」と言うお言葉を頂戴したことか……!
そうですよねぇ~、これだけブランクが開けば「もう完結しないのね~」と思っちゃいますよね。
完結しただけで労いのお言葉をいただけるなんて、なんて贅沢なお話でしょう。
本当に、最後まで読んで下さってありがとうございました!
そして後1話で終わることがわかっていながら、半年以上お待たせして本当に申しわけありませんでした。

アレックスやルシガを気に入って頂けて光栄です。
後日談は……きっとたいしたことがありませんよ。←おい
山あり谷ありの2人をねぎらうような甘々を書いてあげようかな~とか、ぼんやり考えておりました。
続編を書くとしたらよほどドラマチックな展開にしないといけないでしょうから、思いつくかどうかが鍵でございます。
まだ先になるとは思いますが、気がついたら2人をひょっこり書いているかもしれませんし、「本にまとめてもいいかもなぁ~」とチラリと思ったりしてますので、どんな形になるかは未知数ですが、2人もまたh様にお会いできることをイチャイチャしながら待っているようです^^

素敵なコメント、本当にありがとうございました-!
2012/09/05 【ねむりこひめ】 URL #- 

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