【はちみつ文庫】 若旦那は金髪がお好き 1 【R-18】
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□ 若旦那は金髪がお好き  □

若旦那は金髪がお好き 1 【R-18】

※このお話は他blogに別ペンネームで書いた「天使の誘惑」を改題、加筆修正した物です。







「あん。……いや……んっ」

真新しい檜の香る浴室に、剃毛の音が響く。

「じっとしてて。危ないから」

葉介は着物姿のまま裾をからげ、イブの前に跪き、剃刀の刃を動かしていた。
湯椅子に座ったイブは半裸の下肢をM字に広げながら、ブランド物のシャツを自分でたくし上げている。
その手が微かに震え、雪のように白い肌が桜色に染まっていた。
眼鏡越しに見える緑色の瞳は、妖しく潤んでいる。

剃毛という行為。
その恥ずかしさと、体験したことのない感覚がイブの躰を熱くしているのは事実だ。
モデルなのだからVラインの処理の経験はあるはずだ。
事実イブの下毛は不自然なほど綺麗に揃えられていた。
しかし外国人から見れば異国情緒たっぷりの総檜造りの浴室で、灯りに照らされながら男に秘所を剃られることなど考えもしなかっただろう。

「ねぇ……本当に剃らないとダメなの?」
「着物は下着なしで着る物なんだよ。我慢して」

葉介は心の中で『そんなわけないだろう』と呟いた。
そして高慢なくせに素直で愛らしく、何よりも今まで会ったどんな人物より美しいイブを辱めてる自分に満足してする。

「あっ……ふっ……ん」

甘いため息を漏らし、イブの分身が起き上がってくる。
薄紅に染まったそれはふるふると震えながら、甘い蜜を垂らしていた。

剃刀を持たぬ手の指先で、そっとその蜜を拭い舌で舐め取ると、葉介はわざと呆れたように眉をしかめて言う。

「こんなになって……厭らしい子だ」
「いやんっ……」

頬を染め羞恥に耐えるイブを見て、今すぐ組み伏せたい気持ちを抑え、葉介は再びゆっくりと剃刀を動かし始める。

『あれだけ焦らされたんだ。楽しませて貰わないとな』

イブのあずかり知らぬことだが、これは葉介のささやかな「お仕置き」だった。





小田島葉介は、古都金沢にある老舗の呉服屋の若旦那だ。
端整な顔立ちと女心を蕩けさせる笑顔で、呉服離れのこの時代でも売り上げを伸ばす才覚を持っていた。
伝統的な加賀友禅のみを扱う店として、葉介の呉服屋は希有な存在だった。

大量生産の安いが品のない呉服が、今や古都金沢でも普通に流通している。
作家物の特選品は、よほど良い顧客を持っていなければ売れはしなかった。
その客の多くは代々のご贔屓筋と言うこともあるが、客を離さぬ技量がこの若旦那にあるのだ。
事実、店主である父はとうに半隠居状態で、全ては彼の裁量に任されていた。

葉介は店に立つときはみずら着物に袖を通す。
その姿見たさに店に足を運ぶ客もいるのを知っているからだ。
顧客はもちろんだが、噂を聞きつけた若い一見さんもやって来る。
そんな客に葉介はまず、小さな飛び模様のある加賀小紋を薦める。
比較的安価で、帯び一つで印象の変わる小紋は、茶道が盛んなこの街では使い勝手のある着物だからだ。

そして着物には取り憑かれた者にしかわからない魅力がある。
一度その魅力にはまった客は、今度はより高価な品物を買うために再び店を訪れるのだ。
それだけにどんな客も葉介は疎かにすることはなかった。

ある日のこと、東京を拠点にしているオートクュールデザイナーから葉介に電話がかかってきた。
パリコレで加賀友禅の生地を使うときに、友禅作家との橋渡しをして以来のつながりのあるデザイナーは、留学経験があり英語が話せる葉介によく外国人客を紹介してくれる。
『着物を欲しがっている外人モデルがいる』と言われたとき、当然のようにやって来るのは女だと思っていた。





予約時間より2時間以上遅れて現れたのは、187cmの自分とほとんど変わらない、長身の美女だった。
職業柄グラマーではないが、細く長い手足とすっと伸びた背筋が美しい。
腰に届きそうな金髪はゆるく波打ち、宝石のような緑の瞳がキラキラと輝いている。
桜色の唇は薄くグロスをつけているだけなのに、ぽってりとふくよかで、思わず吸い付きたくなるほどだ。
その成熟した唇と、あどけなささえ感じる瞳のアンバランスさがたまらなく魅力的だった。
一瞬天使が舞い降りたのかと思ってしまうその姿は、今まで彼が人生で出会った女性の中で一番の美しさだった。

しかしその美女が言葉を発っしたとき、葉介は彼が男であることにすぐ気付いた。
微かに動く喉仏もそうだが、何より声質が太いのだ。
しかしその話し方は英語であっても、実に女っぽい。

「カマのモデルか?」

この手の輩は留学先で何人も見たからすぐに分かる。
葉介は反物を取りに行ったついでに、ネットで素早く検索をする。

「イブ・アローナ♂19歳。アンドロジニーと呼ばれる中性的な魅力を持つモデル。……女性有名ブランドのモデルも務める……ふーん……。……やっぱりカマか」

葉介は女も男もいけるバイセクシャルだった。
イギリスに留学したのが悪かったのか、男の味はその時に覚えた。
しかしニューハーフだの、オネエだの言われる部類は管轄外だ。
女であれば女らしく、男であれば男らしい者にしか興味を持てなかった。

「せいぜいお嬢ちゃんから、金を絞り取らせてもらいましょうか」

葉介は普段客には見せない、男物の泥大島の逸品を思い出した。
加賀友禅を専門的に扱うとは言え、大島は呉服屋なら置いておかねばならない。
奥にしまっているそれらを取り出すと、イブの元に行き反物を広げた。
渋い色合いの泥大島は外国人にも人気のはずだ。
しかしそれを見たイブはあからさまに眉をひそめ、葉介を睨む。

「私は加賀友禅が欲しくて金沢まで来たの。加賀友禅を見せて! ほら、あの表に飾ってるようなヤツよ!」

――可愛い顔をしているくせに、なんて高慢なんだ。

心の中でそう思っても、笑顔で接客するのがプロである。
葉介は女なら失神するような顔で微笑むと、穏やかに言った。

「あれは女物ですから」
「かまわないわ」
「日本の女性は小柄なので、残念ながら貴方に合うサイズの物はないのです」
「じゃあ、作って!」
「作家さんのご紹介はできますが、反物から特注で作らないとなりませんし……お値段が張りますので……」
「いいから、作って!」

――全く、これだから素人ってヤツは……。

ごくまれに、金沢旅行に来たついでにと「作家にオリジナルの着物を作ってもらいたい」と言う、一見さんがやって来ることがある。
そしてその金額を聞き顔色を変えて店を飛び出すのを、葉介は何度となく目にしていた。

葉介は声を潜め神妙な面持ちで、その金額を口にした。
高級スポーツカーが買えるほどの金額に、相手はすごすごと立ち去るはずだった。
しかし19歳の小僧であるイブは、何事もないように頷いた。

「結構よ。私時間がないの、すぐに打ち合わせをさせて」

年に何件かあるかないかの商談に、度肝を抜かれたのは葉介の方だった。
イブの好みは花を描いた物だ。
それに見合う作家に連絡を取るが、今日すぐにというわけにはいかなかった。

「早くて明日の午前中にしか時間が取れないようです」
「う~ん……しかたないわね。……ねぇ……貴方、名前はなんて言うの?」
「私ですか? 小田島葉介と申しますが……」
「ヨースケ。じゃあ、今日は貴方が金沢を案内して!」
「え?」

呉服屋の顧客というのは得てして我が儘だが、まだ商品を買ってない客の相手をする必要は無い。

「……私は仕事がありますので、案内人をご紹介いたしましょう」

葉介は、知り合いの金沢在住の外国人に連絡を取ろうと形態を手にした。
それを遮るようにイブはぐっと顔を近づけて彼に命じる。

「嫌っ! ヨースケがいい!」

頬を膨らませて言う姿はまるで子供だ。

「しかし……」
「金沢は『カガヒャクマンゴク』って言うんでしょう? 私を素敵なところに連れて行って!」

そう言うと、イブは葉介の手を握り引っ張った。

――仕方ないな。これも商売、商売。その代わり、絶対買わせてやるからな!

葉介は微笑むと「かしこまりました。では参りましょうか」と、高慢な客をエスコートすることにした。





葉介は自分の車を使い、イブに城下町を案内した。
さほど大きな街ではないのでさっさと済ませ、兼六園に向かった。
車の中でイブは上機嫌で話しはじめる。

「日本は好きだから何度も来たことがあるの。アサクサにオモテサンドウにキョウト! でもね、金沢が一番好き!」

自分の住む町を好きと言われて、悪い気はしない。
自然な笑みが自分からこぼれるのを、葉介は感じた。

「金沢のどこが気に入りましたか?」
「落ち着いていて、観光地っぽくないところが魅力的だわ。それに大好きな加賀友禅もあるし」
「加賀友禅をどこで知ったのですか?」
「着物の本よ、大きくてこーんなに分厚い本なの」

両手を使い大きさを表現する仕草はやはり子供のようだ。
高慢さが影を潜め、少女のような愛らしさを感じる。

「しかし外国では加賀友禅より、京友禅の方が有名でしょう?」
「でも私にとっては、加賀友禅が好き! 一番素敵だもの。だから自分用の着物が欲しくなったの」

熱心に語るイブの姿は、改めて見ると夢のように美しかった。
窓から入り込む日差しに金色の髪は輝き、透けるような白磁の肌に男の影は見えない。
大きな緑色の瞳は言葉より饒舌で、肉厚な唇に思わず触れたくなる。

――あれ? 俺は、オカマやオネエは嫌いなはずなのに……。

不思議な感情が葉介に芽生え始めたとき、車は兼六園に着いた。




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Date:2012/09/05
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