【はちみつ文庫】 若旦那は金髪がお好き 2
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□ 若旦那は金髪がお好き  □

若旦那は金髪がお好き 2

葉介は自分の車を使い、イブに城下町を案内した。
さほど大きな街ではないのでさっさと済ませ、兼六園に向かった。
車の中でイブは上機嫌で話しはじめる。

「日本は好きだから何度も来たことがあるの。アサクサにオモテサンドウにキョウト! でもね、金沢が一番好き!」

自分の住む町を好きと言われて、悪い気はしない。
自然な笑みが自分からこぼれるのを、葉介は感じた。

「金沢のどこが気に入りましたか?」
「落ち着いていて、観光地っぽくないところが魅力的だわ。それに大好きな加賀友禅もあるし」
「加賀友禅をどこで知ったのですか?」
「着物の本よ、大きくてこーんなに分厚い本なの」

両手を使い大きさを表現する仕草はやはり子供のようだ。
高慢さが影を潜め、少女のような愛らしさを感じる。

「しかし外国では加賀友禅より、京友禅の方が有名でしょう?」
「でも私にとっては、加賀友禅が好き! 一番素敵だもの。だから自分用の着物が欲しくなったの」

熱心に語るイブの姿は、改めて見ると夢のように美しかった。
窓から入り込む日差しに金色の髪は輝き、透けるような白磁の肌に男の影は見えない。
大きな緑色の瞳は言葉より饒舌で、肉厚な唇に思わず触れたくなる。

――あれ? 俺は、オカマやオネエは嫌いなはずなのに……。

不思議な感情が葉介に芽生え始めたとき、車は兼六園に着いた。





兼六園を散策し、茶屋に駆け込みで入る頃には日も暮れかけていた。

「抹茶、大好き!」

そう言いながらフウフウと息を吹いて、茶を冷まそうとする姿が愛らしかった。
葉介がついぼんやりとイブを眺めていると、いきなり視線が合う。
急に真面目な顔をして、イブが口を開いた。

「今日は私のために時間を取ってくれてありがとう」
「明日は作家の工房にご案内しますから。楽しみにしていてください」

それからイブは何かを考えるように、上を向き、うんと頷くと意を決したように話し始めた。

「ホントウニ、アリガトウゴザイマス。アシタモ、ヨロシクオネガイシマス」

突然の日本語での礼に、葉介は思わず笑ってしまった。

「ワタシ、ニホンゴ、オカシデスカ?」
「いいえ、綺麗な日本語ですよ」

そう言われて、まるで子供のように はにかんで笑うイブの姿に

――いかん、惚れちまったか?

葉介は自分の恋心を認めざるをえなかった。

――女以上に女性的なのが悪いんだ。俺は女としてコイツを見てるんだよな?

そう思いながらも、恋が理屈ではないことを葉介は知っていた。





翌日作家と打ち合わせを済ませると、イブは仕事の為、日本を旅立ってしまった。
葉介とイブの関係は、呉服屋の若旦那と客のまま終わるはずだった。
しかしイブを飛行場まで送り、別れを告げるとき、イブは突然彼にキスをした。。
柔らかくふっくらとした唇が「ちゅっ」と音を立てて触れると同時に、同時にイブの甘い香りに包まれる。
身長は同じくらいでも、モデルであるイブの躰はしなやかで華奢だ。
ぎゅっと抱きしめられたその感覚に、年甲斐も無く葉介は顔を赤らめた。

「ツギニアウノ タノシミニシテマス」

イブに真っ直ぐな瞳で見つめられ

「……着物の出来上がりを楽しみにしておいて下さい」

葉介はそういうのが精一杯だった。

「連絡してね!」

そう言い残すと、イブはひらひらと手を振りながらゲートに入っていった。

――くそう。からかってんのかよ。

葉助は振り切るように歩き始めた。
その時だった。
不意に携帯にメールが入る。

『ヨースケ、淋しいよ。早く会いたい』

その文面に、気がつけば顔がほころんでいた。
だが真に受けるわけにはいかない。

『お気を付けて。良い旅を』と返信する。

すぐに返ってきた返事は

『ヨースケ、もうビジネスは終わりだよ。もっとロマンチックなことを言ってよ』

だった。

一瞬考えたが、葉介は返信をしなかった。
駐車場に向かい、車に乗り込んだところで再びメールが届く。

『ヨースケ、冷たい!』

――知るかよ!

車を走らせ5分もすると、またメールが入る。

『ヨースケの馬鹿! 嫌い!』

――はいはい。そうですか、そうですか。

呆れているはずなのに、自然に口元が緩んでいた。
しかし次のメールにどきりとした。

『ごめんね。もうメールしない』

葉介はあわてて車を路肩に止め、返信をした。

『車を運転していて返事が出来なかった』
『ヨースケ! よかった。嫌われたかと思った。ヨースケ、大好き!』

葉介は考えた。

――……こういうとき、外人的には……

『me too』

そう送信して、すぐに後悔したが

『love love love crazy love U!』

と、返ってきた。

「まあいいか。どうせ子供の気まぐれだし」

そう思つぶやくと、葉介はエンジンを再びかけ車を走らせた。。





イブからのメールは彼が帰国してからも続いた。
帰国した当初は仕事が忙しかったのか、ロンドン、ミラノ、ニューヨークと移動すれば、その度に「今ロンドン。また雨。嫌になっちゃう」とたわいの無いことを書いてきた。
それがだんだん、こちらの時間に合わせて『オハヨー』や『オヤスミ』、そしてプライベートの楽しかったことや、仕事で受けたセクハラのことなどが、まるで日記のように送られるようになっていった。
葉介の返事が怠ると『病気なの?』と心配してくるし、当然のように「すぐに会いたい」とか「愛してる」は毎回のように書かれている。

――まるで恋人みたいだな……。

そう思いながらも、葉介は憂鬱だった。
もしイブが自分を恋愛対象に思っているなら、メールだけでは無く電話をかけてくるはずだ。
本気になってはいけないと思いながらも、彼の気持ちとは裏腹にその心はイブに惹かれていた。

その証拠に、消息もっとを知りたいと思えば、やはりネットを見てしまう。
そして調べれば調べるほど、その存在の遠さを思い知った。
彼はファッションショーや、雑誌に引っ張りだこのトップモデルであり、Aリストセレブと言う人種だ。

極東の呉服屋の若旦那が想ってどうこうなる相手ではない。
しかもボーイフレンドがいるらしく、ネットを覗くたびに、葉介はゴシップ目にすることになる。
その上その男は髭を生やしたラテン系で、自分とは似ても似つかぬタイプなのだ。
本気になって良いことなど一つもありはしない。

――28歳にもなって、何をやってるんだ俺は?

葉介は自分の心に言い聞かせた。

――これは仕事だ。こんなメールのやり取りも、着物を渡してしまえば終わる。

そう思いながらも、胸に重い鉛があることを感じていた。





友禅流しに間に合わせるようにして制作された反物が仕上がり、金沢一番の和裁師の手にかかり着物として出来上がってきた。
葉介は店の屋号が書かれた包みを前に、小さなため息をつくと、 最後になるであろうメールをイブに打った。

『貴方の着物が仕上がりました。どういたしましょうか?』

しかし、どうしたことだろう?
イブから返事はなかった。

メールが届いてないのかと思い、もう1度メールを打ったが返信が無い。
葉介はイブからの「おはよう」メールが今朝は届かなかったことを思い出した。

――忙しいんだろう。

しかし3日過ぎても返事は届かなかった。
それまで葉介を追いかけるように来ていたメールが、一切なくなってしまったのだ。

――代金は前金でもらってるから、かまわないさ……。

自分に言い聞かせるように心の中でつぶやく。

――セレブ様の気まぐれに、なに本気になってるんだよ、俺は。

唇すら重ねてない相手に、翻弄されている自分に嫌気がさした。

葉介は小さく溜め息をつくと、たとう紙を取り出し、その上に着物を広げた。
染め上がった着物は、まるで一枚の絵のように見事な品物だった。
目が覚めるような勿忘草色から花緑青にぼかされた地に、大輪の白い百合が凛と立ち上がり、その周りを四季の花が取り巻いている。
古典にしてモダンを取り入れた画期的な芸術作品だった。

作家が「あのきめの細かい白い肌、そしてあの身長でなければ着こなせない物を作った」と言っただけに、この着物に袖を通すのはイブしかいない。

葉介には、華麗なのにどこか頼りなげなその百合の花が、イブに似ているように思えた。

――これを着たらきっと似合うだろうな……。

そう思いながらも葉介はどうしていいかわからなかった。
紹介してくれたデザイナーに連絡を頼めば良いのだが、エージェントに送ってくれと言われるのが怖いのだ。
外国に持参してでも、この着物を着たイブの姿が見たかった。

そして未練がましいと知りながらも、もう少しだけ連絡を待つことを決めたのだった。





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Date:2012/09/07
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