【はちみつ文庫】 猫と執事とご主人様っ! 【もんもん妄想ひつじさん】
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□ 猫と執事とご主人様っ! □

猫と執事とご主人様っ! 【もんもん妄想ひつじさん】

執事にとっての最高の名誉――それは素晴らしい主人に仕えることだ。
どんな立派な屋敷であっても、主が愚かであれば家名を守ることは出来ない。

彼の朝は早い。
夏でも日が昇る前に起き、その日主が着るであろうスーツは当然のことながら、シャツや靴下そしてアンダーシャツやパンツにまでチェックを入れる。
皺一本、埃一個ない状態の物を主に差し出す、それが彼のプライドだ。
重箱の底を突くように点検の中で、小さな皺を見つけると彼は嬉々としてアイロンをかける。
問題が見つからないと思わず舌打ちしてしまうほど、彼はこの作業を愛していた。

「ああ……私がお屋敷に来たての頃は、毎日ご主人様のパンツを手洗いしたものなのに」

彼はトレーの上に重ねた衣服を見て、ため息をついた。
この家には二〇名ほどの使用人がいる。
その中で英国の執事学校にまで行かせてもらい、今ここを任されている事はありがたいことだが、下着を洗うと言う誉れ高き仕事を、他の者に任せるのは残念でならない。

「本当は私一人で十分なんだ」

物理的には可能だった。
主のためなら、不眠不休で働くことが彼なら出来た。

『ご主人様、今朝の下着をご用意いたしました』
『ん?……どうしておまえ手にあかぎれが?』
『み……見ないでください』
『おまえ……まさか、このパンツを手洗いしたのか?』
『……はい』
『ばかだなぁ。白魚のような美しい手なのに。こんなになるまでパンツを洗うなんて……ここにおいで』
『あんっ。だ……だめです、ご主人様。会社に行かれる時間です……』
『会社など、お前と比べたらどうなってもかまうものか。さぁ!』
『ご主人様ぁ~。あっ、あ~んっ』

「アーロン様? アーロン様?」

メイドに名前を呼ばれ、彼は我に返った。

――っくそう。せっかくいいところだったのに。

心地よい妄想を破られ、彼は眉を上げたが、執事の仕事は最優先だ。
朝食の準備を訊ねるメイドに指示を与えると、スーツの入った衣装袋を片手に持った。

「あの、お手伝いいたします」
「必要ない」

メイドの申し出冷たく突き放すと、もう片方の手でトレーを持ち、アーロンは主の部屋へと向かった。




デュフォール家の本邸はニューヨーク郊外にある。
22の部屋を持つ大豪邸だが、ロスタイムを嫌う主は、五番街にあるこのマンションで平日を過ごしていた。
マンション自体が彼の所有物であり、建物の最上階から三階部分が彼の自宅なので、ゲストルームはもとより、パーティーを開く大広間もある。
一階に高級ブティックが多数入るこの豪華なマンションは、アッパークラス・ニューヨーカーの憧れのまとだった。

アーロンは螺旋階段を上り、主の住む最上階へやって来た。
廊下を挟んで東側にある空中庭園は、もとはむき出しの青空を楽しめたのだが、先の航空機爆破テロにより、防弾硝子製の高い天井で覆われている。
金細工が施されたそれは、庭園自体を大きな美しい鳥かごのように見せていた。

光が降り注ぐ廊下を歩くアーロンは、上質な黒いスーツとその中にグレーのベストを合わせて着ていた。
執事の定番のような服だが、彼が着るとまるで貴公子のように見える。
少し長めの銀髪が光に輝き、すみれ色の瞳がどこか物憂げな、美貌の持ち主の彼は、パーティーで訪れる富豪婦人からお誘いを受けることも多々あった。
しかし、彼の目には己の主しか写ってはいない。

貧しい家の出の彼を拾ったのは、今は本邸にいる老執事だった。
屋敷に連れてこられたあの日、五つ年上の主を一目見たときのことを、アーロンは今でも鮮明に思い出すことが出来る。
普通なら同じ人間として生まれて、これほど違う暮らしをしていたら、逆恨みをしてもおかしくないだろう。
しかしアーロンは主を見た瞬間に思ったのだ。

――この人は王様だ。

そう。王子ではなく、王なのだ。
逞しく、知性があり、自信に溢れたその美しい少年は、十五歳になったばかりだというのに、すでに王者の風格を持っていた。

「おまえは一生この方にお仕えするんだよ」

アーロンはその言葉を噛みしめた。

――あの美しい少年王が、本物の王になられたのだ。

アーロンはそう考えただけで、小躍りするほど嬉しくなる。
元々名家ではあったが、その家名をより高めたのは今の主だ。
多くの企業を傘下に収め、その頂点に立つ主は彼の誇りだった。

彼は両開きの大きな扉の前で、その足を止めた。
三度ほどノックをしても返事がないのはいつものことだ。
扉を開け、主のプライベート・リビングルームに入ると、あちこちに脱ぎ散らかした女服が落ちていた。

――また、雌猫を連れて帰られたのか。

完璧な主の唯一の欠点が、女遊びだった。
英雄色を好むというだけに、仕事ができ、地位と名誉を併せ持った男は、女に関しても貪欲なものなのだ。
アーロンは眉根を寄せ、転がった靴に目をやった。

――あー、やだやだ。なんて大きなハイヒールなんだ。水を貯めたらこの中で水泳が出来るぞ。

主の相手は有名女優やモデルだ。
この巨大な靴の持ち主は、身長180cm近くはあるはずだ。

――昨夜の女はモデルなんだろうな……。

部屋の散らかり方からして、昨夜どれくらい激しい行為が行われたのかは想像がつく。
胸をきゅっと掴まれるような、嫉妬が彼の心をしめる。

――ああ、もう。

執事業界には、主に恋心を抱く者は多い。
ごくまれにその恋を実らす者もいるが、ほとんどは道ならぬ思いに身を焦がす者ばかりだ。
仕事柄、情事の後や、ときにその行為を目にすることがあるので「執事はM気質がなければ勤まらない」とさえ言われている。
アーロンは黒いレースのブラを、いまいましげに靴先で払うと、寝室へと向かった。
扉をノックをして、いつもの言葉を言う。

「入ってもよろしいでしょうか?」
「……ああ、いいぞ」

眠たげな返事を聞き、中に入ると、彼はスーツの入った袋を一人がけの椅子に置いた。
薄暗い部屋の遮光カーテンを開けると、主がベッドから起き上がる。

――ああ、なんて逞しい。素敵です。今日も素敵ですよ、ご主人様-っ!

アーロンは、思わず声が出そうになるのをぐっと押さえた。
無造作に起き上がったので、シーツが落ち、厚い胸板や割れた腹筋が見える。
しかし何よりも目がいってしまうのは、こんもりと盛り上がった股間の膨らみだ。
シーツの上からでもはっきりとわかる立ち上がり方から、その立派さが想像でる。

――ご主人様ったら。昨夜励まれたというのに、もうこんなに! ケダモノー! 
って、……ん?

アーロンは、いるはずの女の姿が見えないことを不思議に思い、主に尋ねる。

「ご主人様、昨夜見えられたお客様はいかがされましたか?」
「帰らせた」
「お洋服はまだリビングにあるようですが…… 何をお召しになって帰えられたのでしょうか?」
「さあな。隣に人がいると、ゆっくり眠れんからな。帰れと行ったら怒って出て行った」

――ご主人様のオニ-! やるだけやって帰れとは、この鬼畜-ー!

顔がほころぶのを悟られぬよう、トレーの上の衣服をサイドテーブルに並べていく。

『怒ってるのか?』
『怒るなんて……あなた様はこの家の主です。どのような方を招かれるのも、ご主人様の自由……あっ……』
『ばかヤツだな……本当に愛してるのは……アーロンおまえだけだよ。……ここにおいで』
『だめです、ご主人様。ご主人様にはお仕事が……』
『会社など、お前と比べたらどうなってもかまうものか。さぁ!』
『ご主人様ぁ~。あっ、あ~んっ』

「……おい。おい、コラッ! 聞いてるのか?」

妄想から一瞬にして現実に引き戻されたアーロンは、慌てて返事をした。

「あ、はははい~!ご主人様っ!」
「なんだ、ぼーっとして。疲れてるのなら休暇でも取れ」

――ご主人様の……ばか。

「服はまとめて捨てろ。それから、例の女には小切手で手切れ金を渡しておけよ」

――ご主人様の、ばかばか。

「あ、それからあっちの女の誕生日には何か……そうだな、宝石を見繕って贈っておいてくれ」

――ご主人様の、ばかばかばか。

「頼んだぞ」

それでも確認するように見つめられると、アーロンの胸は高鳴ってしまう。
美しいアーモンド型の瞳は濃紺で、時折深海に差す光のように輝くのがたまらない。
やや高めの筋の通った鼻と、形良い唇が、バランス良く配置された美しい顔だ。。
漆黒の髪と浅黒い肌が野性味を与え、知性と溢れる自信がこの男をより魅力的に見せていた。

――ああ……やはり素敵です。世界中を探したって、あなた様以上の方はいません。ご主人様は唯一無二お方ですっ!

「かしこまりました」

幸せと地獄が背中合わせ……それが彼の執事ライフだった。


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Date:2013/08/06
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