【はちみつ文庫】 猫と執事とご主人様っ! 【にゃんこを拾った大富豪】
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□ 猫と執事とご主人様っ! □

猫と執事とご主人様っ! 【にゃんこを拾った大富豪】

フォーブス誌や、下世話なセレブ雑紙などに公開される彼のプロフィールには、ローランド・A・デュフォールと書かれているが、それは彼の本名ではない。
ルシガ・ローランド・アルフレッド・デュフォール――これが彼の正式な名前だ。

ファーストネームで呼ばれることを極端に嫌う彼を「ルシガ」と呼ぶ者はいない。
結婚を噂された有名女優が、彼のファーストネームを呼んだことで、結婚はおろか、二度と表舞台に立てなくなったという噂が、まことしやかに語られている。
事実、以前この国で名の通った企業のトップが、パーティーの席で気安く「ルシガ」と呼んだため、週明けにはその会社は姿を消していた。

「ありがとう、ミスター・デュフォール。連絡をしてね」
「ああ」
「必ずよ。待ってるから」

女はそう言うと、長い足をすべらせ黒塗りの車から降りた。
深紅のカクテルドレス似合う絶世の美女は、有名ブランドの香水CMをやっているモデルだ。
ドレスについたビーズが月の光に煌めいている。

「行ってくれ」

見送る女に目もくれず、彼は運転手に命じた。
走り出した車内で、大きなため息をつくと、シガーボックスから葉巻を取り出し片側を切り落としす。
火を点け煙を吐き出した。
車内は換気されているとは言え、女の残り香でむせ返るようだった。

――香水のつけすぎだ。

彼は愛煙家ではなかったが、嫌な香りを消すにはこれが一番だった。
あの女には二度と会うことはないだろう。
会話も、趣味も、ベッドの中も退屈な女には用はない。

名家に生まれ、事業家としての地位も確立した彼は三十半ばになろうとしていた。
欧米はどこに行くにもパートナーの同伴を求められる。
年齢的に妻を迎える時期がきていた。

――家柄がよく、ほどほどの賢さで文句を言わなければそれでいい。

賢すぎたり、自己主張の強い女は面倒だ。
仕事の邪魔にならず、必要なときに同伴し、あとは子供を産んでくれれば良い。
彼は快楽や美しさを外に求めればいいこ。
それは父母の関係から学んだことだった。
愛など仕事に比べたら、たわいのないものだ。
一瞬燃え上がるような感情があってもそれは錯覚で、心が離れた後は惰性か別れしかない。
最高の女を手に入れる喜びより、仕事において自分の支配権を拡大することの方が彼にとっては重要だった。

彼が腕にはめたパティック・フィリップのRef.1518 に目をやると、夜中の二時を過ぎていた。

――明日の休みは、本邸へ帰ってアレックスに会うか。

アレックス――アレキサンドラは、彼がこの世の中で最も美しいと思っている女性だった。
黒くしなやかな躰と、輝く瞳、そして巨大な牙を持った黒い女豹を、彼はことのほか大切にしていた。
いくら広いマンションに住んでいるとは言え、ニューヨークの街中に彼女を連れてくることは出来ない。
デュフォール本邸の広大な敷地の中に彼女専用の建物を建て、時々会うのが彼の楽しみだった。

――執事に言って神戸牛を一頭取り寄せさせよう。アレックス、新鮮な生肉を食べさせてやるからな。

そう思ったときだった。
すさまじいブレーキとタイヤの擦れる音と同時に、彼の躰が前につんのめった。

「どうした?」
「す……すみません。人かが飛び出してきて……」

運転手とその隣に座っていたボディーガードが、慌てて車内へと飛び出していった。
彼も窓から外を見たが、丁度正面にいるようで、姿を確認することは出来なかった。

「うわぁあああああっ!」

悲鳴と共に、運転手が車に駆け戻ってきた。

「なに事だ?」
「み……耳があるんです」
「はぁ?」
「ピクピク、ピクピク……って、動いてました」
「なにを言っとるんだ、おまえは?」

しかし、運転手はうわごとのように「みみ……みみ……」とつぶやくだけだ。

「もういい。俺が直に見る!」

彼が外に出ると、ボディーガードが駆け寄ってきた。
彼は制止を振り切ると、車の前にまわり、ヘッドライトの前の人物を見た。
そこに横たわっていたのは十四、五歳の少女のようだった。
白い大人物のYシャツの下は、なにも身につけていないのか、白く細い足がむき出しになっている。
瞼を閉じたままでもその少女の美しさは容易に想像できた。
透けるように白い肌と、ツンと尖った鼻、桜の花弁のような唇がなんとも可憐で、緩いウエーブのかかった金髪の中には、大きな猫耳がついていた。

――猫耳。……ん?……猫耳?

「み、みみ~っ!」

彼の出した大声に、耳がぴくりと反応した。

「……み、耳がーっ!」

ぴくぴく。

「……耳が……」

ぴくぴくぴくぴく。

「耳が……かわいい……」

「かわいい」となどという言う言葉を彼が口にしたのは、きっと生まれて初めてのことだろう。
今までの人生で味わったことのない感情が、一瞬にして雪崩のように押し寄せてきた。
猫耳の内側は淡いピンク色で、回りを白い毛ふさふさとついている。
それがピクリと動くたびに、彼の胸は高鳴った。

「う……うぅん」

苦しそうな顔で少女が身体を動かそうとした。
彼はその肩を押さえ、顔を近づけると、この男らしからぬ優しい声で語りかける。

「動くんじゃない。今、助けを呼ぶから」

眉根を寄せながら開いた少女の目の、南の海を思わせるようなブルーの瞳に、彼は心を奪われた。
水面の揺らめきのようなその瞳は、彼が今まで見た誰のものよりも美しく、希少な宝石のようだ。

「たす……けて」

か細い声を絞り出すと、少女は崩れるように目を閉じた。
胸を締め付けられる苦しさに、彼は叫んだ。

「死ぬな、死ぬんじゃない!」
「……ミスター・デュフォール」
「俺が守る。この命にかけても、おまえを守るから!」
「あの……ミスター・デュフォール……?」
「だから死ぬんじゃない~っ!」
「ミスター・デュフォール。お取り込み中、申し訳ございませんが……」
「くっ、なんだ?」

振り返えった彼の鬼気迫る顔に、ボディーガードはたじろいだが、涙を流しながら一人ドラマを続ける雇い主に、真実を告げねばならなかった。

「申し上げにくいのですが、車は躰に当たっておりません」
「あん?」
「車が止まった後、倒れたのです。多分、ショックで倒れたのでしょう」
「そうか、当たってないのか。でかしたぞ、運転手。よし、この娘を連れて帰るぞ」
「しかし……耳がついてますが?」
「可愛い耳だ」

彼が少女を抱き上げると、そのシャツの裾から何かがこぼれ落ちた。
ふさふさの長毛種のような白い尾が、力なく揺れているのを見て、ボディーガードは言葉を重ねた。

「……しっぽもついていますが?」
「あん?」

彼は五秒ほどその尾を凝視した。
だがその考えを変えることはなかった。

「かまわん。行くぞ」
「しかし……」
「くどい!」

そう言うと彼は歩き出した。
大富豪実業家ルシガ・ローランド・アルフレッド・デュフォールを止められる者など、この世には存在しないのだった。

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Date:2013/08/07
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