僕の後ろに立っていたのは、輝く金髪を持った美しい男性だった。
何かに似ていると考えてすぐに、僕は教会の壁に掛けられた絵の中に、彼のような大天使がいたことを思い出した。
天使は男を見つめ、ゆっくりとその美しい唇を開いた。
「こんなこと、しちゃだめよ」
「あ……いや……その……」
天使に咎められ、強気だった男が目に見えて萎れていく。
「席をかわってちょうだい」
彼言葉に、男は逃げるようにその場を離れていった。
天使は空いた席に座ると、スコッチのダブルを注文して、僕の目の前にあったグラスをバーテンダーに返した。
「知らない人に奢られちゃだめよ。特にこんな店では……ね」
「あ……はい」
「あのお酒はブロークン・ボディーって言うの。飲んだら酷い幻覚を見るわ。眠ってる間に男達に輪姦さるのはまだまし。効き過ぎて中毒死することもあるのよ」
女性的な話し方だが、ハスキーでゆっくりとしたリズムが、なんとも魅力的な声だ。
僕は隣に座った彼を横目で見た。
淡いベージュ色のスーツにライトパープルのシャツ、それにパステルブルーのタイを合わせた姿は、雑紙から抜け出したモデルのようにも見える。
細身だが、身長と肩幅があるので、何を着てもきっと似合うだろう。
しかし、それ以上に目を引くのはその見事の金色の髪だ。
黄色味の強い見事な金髪……僕はこんな美しいブロンドを初めて見た。
少し長めの髪は緩くウェーブして、何かの拍子に片目にかかるそれを、白く長い指がかきあげる……その仕草が実に優雅なのだ。
透けるように白い肌、南の海を思わせるライトブルーの瞳、ツンと尖った鼻、そして薄く小さめの唇……それらがなめらかな曲線を描く輪郭の中に美しく収まっていた。
神様が世界中から美しい物を集め作り上げたような、そんな顔立ちだった。
「なぁに?」
急にのぞき込むように見つめられ、僕は戸惑った。
無遠慮に彼を見ていたかと思うと、なんと返事をして良いかわからなくなる。
ごまかすように斜めを向いた僕の目に、小さな螺旋階段が映った。
入り口横の死角にあるので今まで気づかなかったが、最小限のスペースに作られた黒い鉄製の階段だ。
二人の男が、じゃれ合いながら上っていくのが、手すりをさせる柵ごしに見える。
「ああ、あれ? 二階にある部屋に行くのよ」
「部屋? なんの部屋があるんですか?」
「決まってるじゃない」
訊いた自分が間抜けだった。
「上へあがりたい?」
言葉に弾かれたように、僕は彼を見た。
艶然と微笑む顔を見て、僕は彼が大天使ではなく、堕天使であることにやっと気づいた。
部屋に入ると、長身の男はすぐにスーツのジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けた。
それからバスタブの蛇口を捻り、湯を溜める間に残りの服を脱ぎ始める。
そしてほどよく筋肉の付いたしなやかな躰が真っ白で眩しかった。
「何を見てるの? ストリップじゃないんだから」
「え?」
「さあ、服を脱いで。一緒にお風呂に入りましょう」
「一緒にですか?」
「そうよ。躰を洗ってあげる」
男の話し方は、今時の女性よりたおやかだ。
僕はおずおずと服を脱ぎ、彼についてバスルームに入っていく。
その部屋のユニットバスは、男二人が一緒に入るには小さすぎた。
僕は男と向かい合うようにして、躰を縮めて湯につかった。
「すごいわね、若いって。肌が水を弾いてる」
「そんな……あの……貴方も若いです」
「あら、ありがとう。良い子ね」
そう言うと男は微笑み、僕の唇にキスをした。
初めての同性とのキスに、僕の心臓は飛び出しそうになった。
男の舌が、僕の唇を割って入ってきた。
上あごの部分をその舌で優しく撫でられると、僕は声を漏らしてしまった。
同時に身体が反応ていくのがわかる。
「ほら、やっぱり若い。もうこんなになってるわ」
いきなりそれを握られて、僕は赤面した。
水の中でこねるように弄られると、それはみるみる力を帯びていく。
「ねぇ、イキたい?」
ハスキーな声で耳元で囁かれた瞬間、僕のそれは情けなくも弾けてしまった。
「す、すみません」
「気持ちよかった?」
「え? ……は、はい」
「素直ね。可愛い」
僕は男の顔が見られなかった。
こんな美しい人の手で、達ってしまったかと思うと、申し訳ない気すらした。
そんな僕を覗き込むようにして、男は訊ねてきた。
「ねえ、抱きたいの? 抱かれたいの? それとも両方?」
そんな言葉に、何の経験もない僕が、瞬時に答えられるはずがなかった。
親に隠れてゲイ動画を見たり、妄想しながら自慰にふけったことはあったが、どうしていいかわからないのが本音だ。
僕が戸惑っていると、彼がまた耳元で囁いてきた。
「わかったわ。今日は私にリードさせて……ね、いいでしょう?」
僕は頷くのがやっとだった。
身体を洗ってもらい、ベッドに横になると、男は口づけをしてきた。
僕は何もわからないまま、彼の唇を貪った。
妄想の中で何度もやったテクニックを試してみる。
唇を離すと男は少し眉をしかめ「私に任せてって、言ったでしょう?」と言った。
咎められ、身体を引いた僕に、彼は艶めかしく微笑みながらその身体を絡めてくる。
なめらかな雪のような肌が、しっとりと重なった。
初めて知った人肌は極上のシルクのようで、身も心も蕩けるてしまいそうだった。
唇についばむようなキスを何度かされ、彼の舌が入ってくる。
甘く濃厚な南国の花のような口づけだ。
その蜜を貪るように、僕は舌を動かした。
彼の舌が僕の口腔内で蠢くと、先程弾けたばかりのペニスが熱を持っていく。
「ふ……っ」
声を押し殺してはいるが、からかうような微笑みに、僕は文句を言った。
本当は、浅ましいくらいの欲望をごまかすしたかったのだ。
「……笑わないでください」
「ごめんなさい。貴方があまりに可愛いものだから……」
「可愛い可愛いって……失礼です」
「んふふふっ。 ……本当にごめんなさい。とても逞しいのね。ブルネットの髪も、ブラウンの瞳もとっても素敵よ」
彼は枕を手に取ると、僕の腰の下に押し込んできた。
「何を……」
「この方が楽でしょう。さあ、膝を立て脚を開いて……」
僕は彼の言葉に従うしかなかった。
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