冬のロンドンの陽《ひ》は短い。
昼間のシーンを三時までに撮り終わると、場所を移動して夜の街灯のシーンを撮り始めた。
いつもなら夜通し行なわれる撮影が、この日は夜の七時に解散になったかと思うと、ルシガが傍にやって来て、僕に耳打ちをした。
「アレックス、九時からパーティーだ。すぐに用意しろ」
彼の命令はいつも唐突だ。
僕はホテルに急いで帰ると、シャワーを浴び、髪を整えてタキシードに袖を通した。
用意された黒いタキシードは、ロンドンの老舗テーラーで仕立てられた物だ。
白いベストを合わせた白いタイは、自分で結ぶタイプで、すべてが彼好みの、趣味の良い最高級品だった。
着替え終わった頃に、ルシガがノックもせずに部屋に入って来た。
「タイを結んでくれ」
手渡された黒いタイを彼の首に回し、それを蝶タイに結ぶ。
僕にタイを結ばせている間、彼は携帯でメールのチェックをする。
「できました」
僕が言うと、彼は携帯を閉じて僕に命じる。
「咥えろ」
言われるがまま、僕は彼の足元に跪くと、彼自身を取り出し口に含んだ。
服を汚さないように細心の注意を払い、それ高めていく。
始めは舌で弄《もてあそ》べたそれは、すぐに口に入りきれない大きさになった。
「……くぅっ……ふぅ……」
慣れた今でも思わず声が漏れるほど、彼の物は大きく、苦痛である事に違いはなかった。
それでも激しく顔を前後させ、それを飲み下そうと僕は務めた。
苦しい作業であったが、彼の大きな手で頭を弄《まさぐ》られただけで、不思議と僕は幸せな気持ちになれた。
それはまるで彼から与えられる、褒美のように思えたからだ。
彼の溜息と共に吐精されたそれを、喉の奥で飲み下すと、僕はそれを綺麗に拭き、服の中に収めた。
一連の動きは、彼に慣らされたものだった。
事が終わると、ルシガは腕時計を見て「時間だ」と言って、部屋を出て行く。
その後ろをハンカチで口元を拭きながら、まるで紐を付けられた子供の様に、僕は付いて行くしかなかった。
パーティー会場に着くと、毎回僕は多くの人に紹介される。
その全ての名前と顔を覚え、いつどこで話しかけられても、瞬時に思い出せるようにするのが僕の仕事だった。
ルシガに紹介された人々は、口々に言う。
「期待の新人とは、貴方ですか?」
「まあ、なんて綺麗なのかしら。金色の髪に空の様なブルーアイ。まさしく天使ね」
「プロデューサーの目にとまり、電撃デビューとは何と幸運な!」
そして僕が去った後はまるで値定めするように僕を見、遠くでヒソヒソと噂話をし始めるのだ。
彼らの話していることは分かっていた。
「どうやってプロデューサーに、取り入ったんだ?」
「決まってるじゃない、身体よ、身体」
「あの顔と身体で、取り入ったに決まってるじゃないか」
何度となく繰り返された光景が、今夜も目の前で起こっている。
それはまるでデジャヴの様だった。
こんな時僕は思う。有名スターでもない限り、俳優なんて男娼と何ら変わりないのだと。
不特定多数の客を取らなくても、僕はルシガの物である事に違いはない。
それでも僕は彼から離れると、まるで親を失った子供の様に心細くなってしまう。
洒落た話術などない僕は、ただカクテルを飲み、遠くから彼を眺めるしかなかった。
ルシガはどこにいても目立っていた。
彼自身が俳優になればいいと思うほど、美しかった。
長身にタキシードをまとった姿は、下手な名士よりずっと高貴に見えた。
パーティーで人々と語らうルシガは、どこまでもにこやかだ。
2人きりの時には、けして見せてくれない表情に、僕はどちらが本当の彼か判らなくなる。
そんな彼の姿を、気がついたら眼で追うようになったのは、いつからだろうか。
群がる女達に彼が微笑むたびに、疼くこの気持ちは何なのだろう?
分かっていながらも、それを僕はそれを認めたくなかった。
そうやって僕が壁の花になっていると、一人の男が話しかけてきた。
中東の装束を着たこの男とは、パーティーで一度会ったことがあった。
「アレックス君。君に話しかけてもいいかな?」
「お久しぶりです。アサード様」
「ほお。私を覚えていてくれたのかね?」
髭を蓄えた恰幅の良い男は、満足げに微笑んだ。
「はい、もちろんです」
「それは光栄だ。映画の撮影は順調かな?」
「ええ、おかげさまで」
教養のない僕に出来る会話はここまでだった。
それを彼は感じ取ったようで、すぐにこう尋ねて来た。
「ルシガ氏はどこだ?」
「あちらのテーブルで、マーシャル氏と話しています」
「そうか。ではまた」
そう言うとアサードはルシガの所に行って、何やら話をし始めた。
パーティーが終わり車に乗ると、ルシガは酷く不機嫌だった。
深く目を瞑り、苛立ちながら何かを考えている。
ホテルに戻りエレベーターに乗ると、ルシガが僕に言った。
「シャワーを浴びたら、私の部屋に来い」
僕の背中に冷や汗が流れた。
「……はい」
返事をしながら僕は考えた。
―――おかしい……今日は何も失敗していないはずだ。
なのに不機嫌の理由が自分なのは、何故だろう?
彼が、自分の部屋に僕を呼び付ける時―――それは、仕置きが待っている事を暗示していた。
裸にされ、首と両手に黒革のベルト状の枷《かせ》を付けられた僕は、背中の位置でそれらを繋がれ、海老の様に胸を反らしていた。
「アサードと何を話した?」
「……ただ挨拶をしただけです」
「挨拶だと?」
「ひぁあああっ!」
いきなり乳首を強く摘ままれ、僕は悲鳴を上げた。
「お前を買い取りたいと言ってきたぞ。誘惑したのか?」
「誘惑なんて……してない」
「……」
「本当です。……信じて!」
ルシガは刺すような視線で、僕を見ている。
拘束が僕の身体を震えさせ、立っているのも精一杯だった。
そんな僕を、彼は胸を突いてベッドに押し倒した。
「罰を与えなければならんようだな」
彼はベッドサイドに置いてあった小瓶を取り上げると、その蓋を開けた。
芳香を部屋中に漂わせるこの薬は、アラブ諸国の王たちが使う媚薬だった。
粘膜に塗り込められると感度が数倍になり、男が欲しくて堪らない身体にさせられる代物だ。
ルシガは僕の脚を押し開くと、それを塗り込み、蕾を解していく。
円を描くように柔らかに指を動かされただけで、声が漏れてしまうほど身体が疼いた。
「白い肌が、色づいてきたな」
「あっ……あぁ……」
「その揺れる様な青い瞳で、アサードを惑わしたのか?」
「ち……違う」
彼は僕のペニスに手を伸ばしてきた。媚薬で起きかかっていたそれは、軽く扱かれただけですぐに高まってしまった。
完全に起き上がると、彼はそこに何かを付け始めた。
「いや……何を……?」
「達けないようにしてしてやる」
ルシガはペニスの根元に、黒皮で出来た小さなベルトを縛りつけていった。
3連になったそのベルトは僕のペニスをきつく締め付けた。
「やっ……やぁ……」
「体中を縛られたお前は、まるで堕天使だな」
「うっ……」
「さあ、こっちに来い」
そう言うとルシガは僕の身体を、彼の膝の上に持ちあげた。
向い合せに抱きしめられ、彼の物が僕の中に入って来る。
「あ……っ」
彼は僕の後ろを貫きながら、その手で前を弄った。
拘束されたその先を、揉みしだく様に苛められると、行きどころのない快感が僕の身体の中で暴れまわった。
「ひっ……あぁ……っ。もう、許して……」
僕の涙が零れるのを確認すると、彼は僕を貫いたま仰向けになり、僕に命じる。
「動いてみろ」
彼の物が欲しくて堪らない僕は、両腕を後ろ手に縛り上げられたまま、身体を揺すった。
「あっ……あっ……あぁ……っ!」
「ふっ。淫乱だな」
「あぁ……お願い……」
「外して欲しいのか?」
僕は素直に頷いた。
「まだだめだ。もっと腰を振れ」
「苦……しい……」
「だったら私を楽しませろ」
僕は前に爆弾を抱えたまま、懸命の腰を振った。
リズムを付けて腰を上下させると、蕾の奥が熱くなるのがわかった。
「あっ……あぁんっ。……んっ。んっ」
唇を噛み締め、全神経をそこに集中させると、快感が湧き上がってくる。
そこまで来ると、後はあっという間だった。
「あんっ! ……や、やだ……あぁぁぁぁっ!」
僕の後ろが律動した。そのヒクつきが彼の欲望を満たしたのか、ルシガも後を追うように達った。
彼の白濁が僕の中に吐き出されると、ルシガは僕に言った。
「後ろだけで達けるようになるとはな」
「はぁ……お願い、ルシガ……もう……」
「可愛い奴だ……」
そう言って彼は、僕の拘束を全て解くと、今度は「私の目の前で、マスタベーションしろ」と命じた。
自由を得た僕は手を伸ばし、露わな格好で自分自身を扱く。
はち切れんばかりになっていた僕のそれは、あっけ無いほどすぐに弾けて……散った。
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