「すごいよアレックス。絡みついてくる。熱くて気が狂いそうだ」
「はぁんっ。ルシガ……大きい……!」
「自分で動かせるだろう? 動いてごらん」
「あっ。んっ。はぁああっ」
ルシガは首筋に舌をはわせながら両の乳首を捏ね回すだけで、動いてはくれなかった。
「うっ。あんっ。ルシガ……」
「さあ、動いて」
乳首に燃えるような疼きを感じながら、アレックスは腰を揺らした。
懸命に快感を得ようと動かすが、慣れない行為と水の抵抗もあって、思うように動けない。
ルシガは壊れ物に触れるように背後から抱きしめると「一度抜いて、躰をこっちに向けてごらん」と囁いた。
アレックスは言われたとおり、躰を上に持ち上げた。
ルシガの逞しい物が内壁をズルズルと擦りあげ、抜けていくと求めていた刺激に「あああああっ!」と、声がでてしまう。
躰を向き変えアレックスが戸惑っていると、ルシガはいつものように片頬を上げ笑いながら「自分で挿れるんだ」と言った。
ルシガの物を納めるためには脚をカエルのように広げなければならない。
赤黒く血管の浮き出た物を握りしめ、蕾にあてがいながら躰を落とす行為は、限りなく恥ずかしいことだった。
アレックスは羞恥に頬を染め、顔を背けながら腰を落としていく。
「はぁ……んっ!」
ズブズブとめり込んでいくペニスの硬さに、甘い声が漏れた。
「背中に腕を回して」
言われるとおり背中に手を回すと、ルシガは彼の腰を持ち、激しく上下させ始めた。
「ああっ!……いやっ」
「リズムを付けて動かすんだ、深く落ちれば反動で上にあがる」
「んっ。んっ。んっ!」
「少しずつ覚えればいい。」
「ああんっ! やっ!」
「いくらでも溢れてくるな」
ペニスの先端を弄られ、アレックスの背中が仰け反った。
「ルシガ……ルシガ……」
アレックスは譫言のように彼の名を呼びながらその首にしがみつくと、腰を揺すり始めた。
ルシガが下から激しく突き上げながらアレックスのペニスを扱くと、目の眩むような快感が彼を支配していった。
アレックスは窓から差し込む強い日差しに、眉をひそめた。
日は高く昇っているようだが、微睡みがまだ彼を囚えていた。
掛けられたシーツの中で躰を丸めると、肌からルシガの残り香がする。
その香りを吸い込みながら、アレックスは昨夜のことを思い出していた。
浴室での行為の後、寝室に戻りベッドの中で何度も抱かれた。
抱き潰され、動けなくなった躰を綺麗にしながら、ルシガはいろいろなことを話してくれた。
本物の怪盗ヴァイオレットはアーロンであり、ルシガが怪盗となってアレックスの前に現れたのは、グブロー男爵に廃人にされてしまった親友の仇を取るためだった。
男爵は闇で阿片の売買をしており、その親友は彼に騙されるようにして阿片漬けにされた。
ルシガがそのことを知ったときには、彼は全財産を搾り取られ、ルシガの顔の見分けもつかないようになっていたらしい。
ルシガは自分の古くからの知人であるアーロンの力を借り、男爵から全てを奪うことを誓った。
そして男爵邸での下調べのとき、アレックスの存在を知ったのだ。
「僕を抱いたのは……仕返しの為?」
不安げに顔を上げたアレックスに、ルシガは優しく口づけしながら答えた。
「……それだけなら、アーロンがお前の元に行っただろうな」
「……」
「初めて会ったときから、お前に惹かれていた。誰にも触れさせたくなかった」
その言葉を聞き、アレックスは安心したように眠りの中に落ちていったのだった。
アレックスはそれらを思い出しクスリと笑うと、ゆっくりと目を開け、シーツから顔を出した。
明るい日差しの中で、見事な調度品が輝いている。
「……ルシガ?」
隣に寝ているはずのルシガの姿はなく、その名を呼んでみたが返事もなかった。
ベッドサイドに置かれた椅子の上には、洋服が綺麗にたたまれ置かれていた。
汚れた服の代わりに用意されていたそれは、一目で最高級のもだと分る品物だった。
そっと香りを嗅ぐと、ほのかにルシガの香りがした。
羽織るとサイズが丁度良かったので、彼の昔の服かもしれないと思った。
洋服を着てバスルームで身だしなみを整え、アレックスは部屋の外に出た。
記憶をたどりながら廊下を歩いていると、昨夜会った執事が別の部屋から出てきた。
目が合い会釈をしてきた執事に、アレックスは訊ねる。
「あの……ルシガはどこに……」
「旦那様でしたら裏庭で昼食をお食べになっています」
「裏庭?」
「ご案内いたしましょう」
「いや、いいんだ。場所はどこにあるの?」
「階段で一階に下りられると、階段横の細い廊下を奥に進んだ先に扉があります。その扉を開けると中庭に……」
「ありがとう」
執事に礼を言うと、アレックスは足早に裏庭へと向かった。
ルシガから全てを聞いた今、心は羽のように軽かった。
気がつけば中央の大階段を駆け下り、裏庭に繋がる扉に向かって走っていた。
少しでも早くルシガに会い、その胸に飛び込みたかった。
アレックスは扉の前でその足を止めると、呼吸と身だしなみを整える。
ゆっくりと扉を開くと、明るい日差しに満ちた緑豊かな裏庭が見えた。
裏庭と言っても広大な屋敷だけに、かなりの広さがある。
色とりどりの花が咲き乱れ、小鳥のさえずりが耳をくすぐった。
――ルシガはどこだろう?
アレックスが耳を澄ますと、微かに話し声が聞こえてきた。
――誰かと話をしてる?
何を話しているかは聞き取れないが、その声のする方向にアレックスは歩き始めた。
迷路のように植え込まれた木の間を抜けると、急に視界が開け、椅子とテーブルの置かれた場所に出た。
人影を見つけ、声を掛けようとしたアレックスの唇が止まった。
陽の光に透けるような白い背中と銀色の髪が、誰かに覆い被さっているのが見えたのだ。
上半身裸の男が口づけをしている相手は、長い黒髪を持っていた。
「……ルシガ……?」
震える唇からやっと出た言葉に、振り返った男はアーロンだった。
紫色の瞳が挑むようにアレックスを見つめている。
視線をずらすと、その後ろにいたルシガと目が合った。
「……どうして?」
「違うんだ、アレックス!」
いつも自信に満ちたルシガに、明らかな戸惑いが見えた。
その姿が、アレックスに現実を突きつける。
「嫌っ!」
「アレックス、話を聞いてくれ!」
アレックスはルシガの言葉を振り払うように、その場を走り出した。
「アレーックス!」
ルシガの叫び声が聞こえたが、アレックスが振り返ることはなかった。
屋敷を通り抜け表に出ると、丁度使用人が馬で出かける準備をしているところだった。
「貸して!」と言い使用人から馬を奪うと、アレックスは馬に跨がり走りだす。
行く当てなどなかった。
馬が向かう方向にただ走らせるだけだ。
景色と共に涙が頬を伝って流れていく。
ルシガとアーロンは恋人同士なのか?
だとしたらルシガにとって自分は何なのか?
アレックスは混乱の中にいた。
――信じろって言ったくせに。
アレックスの脳裏に、アーロンの生々しい裸体と、挑んでくるような紫色の瞳が過ぎる。
妖艶な美しい男だった。
――何を信じればいいんだ。
全てのわだかまりが解けたと思った矢先に見た光景は、残酷なものだった。
幸福の絶頂から突き落とされ、アレックスはどうしていいか分からなくなっていた。
ルシガはただ美しい男が好きなだけかもしれない。
ブグロー男爵と同じ目で、自分を見ていただけなのか?
自分は結局、男に弄ばれる人形でしかないのか?
そう思うと、胸が引き裂かれるように苦しかった。
あんな形で自分の屋敷を出た以上、帰る場所などどこにもないのだ。
闇雲に森の中を駆け巡ることしかできない自分が情けなく、また涙が出てくる。
馬はアレックスを乗せ走り続け、気がつけば街を眼下に見下ろす崖の上に辿り着いていた。
アレックスは馬から下り崖の際に座ると、景色を見ながら自分の考えを整理しようとつとめた。
しかし考えはまとまらず、悪戯に時間が過ぎていくだけだった。
陽が山陰に隠れようとする頃、アレックスの涙も涸れ、ようやく冷静さを取り戻していた。
――ルシガは愛してると言ってくれた……。
そしてあの時、ルシガは何かを言いたそうだった。
――ルシガともう一度話をして、それからどうするかを決めればいいのではないか?
アレックスが屋敷に戻ることを決めた、その時である。
背後からふいに声を掛けられた。
「ブランシェール伯爵ですね?」
振り返ると、武装をした警備兵らしき男が3人立っていた。
思いにふけっている間に、囲まれてしまったようだった。
「お探し申しておりました。ブグロー男爵邸までご同行お願いいたします」
丁寧な言葉遣いだが、有無を言わさぬものがあった。
逃げようにも背後は崖だ。
剣先を向けられたアレックスは、その言葉に従うしかなかった。
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