概要: ロンドンの最終ロケは、大英図書館の休館日に、そのドーム棟を借り切って行われた。 天使達が地上で落ち合う場所に設定されたドーム棟の閲覧室は、淡いブルーと白の半円状の屋根に、窓がずらりと並ぶ素晴らしく美しい建物だった。 僕らは天使が人間になった後、仲間を探し図書館を彷徨うという、最後のロケシーンを撮っていた。 この撮影が終わっても、アメリカに帰れば、残りのシーンをスタジオの中で撮らなければならなかっ...
概要: それから二週間、全行程二カ月の英国ロケも終わりに近づいたある日、久しぶりの休日が僕に与えられた。 いつもなら休みと言っても、僕を離さないルシガが、この日は違っていた。「ロンドン観光に行って来るといい」 そう僕に言ってくれたのだ。 彼に飼われて七カ月。 僕に与えられた初めての自由だった。 デビュー作を撮っている僕の情報は、もうマスコミに流されていた。 ネットに上がった小さな写真を見て、僕のファンだ...
概要: 冬のロンドンの陽《ひ》は短い。 昼間のシーンを三時までに撮り終わると、場所を移動して夜の街灯のシーンを撮り始めた。 いつもなら夜通し行なわれる撮影が、この日は夜の七時に解散になったかと思うと、ルシガが傍にやって来て、僕に耳打ちをした。「アレックス、九時からパーティーだ。すぐに用意しろ」 彼の命令はいつも唐突だ。 僕はホテルに急いで帰ると、シャワーを浴び、髪を整えてタキシードに袖を通した。 用意さ...
概要: 英国―――ケンブリッジ、ケム川。 雪の降り注ぐ川縁は、指が悴《かじか》むほど寒かった。スタッフが用意したストーブの前に、毛布に包まって座り、メイクを直してもらっていると、おしゃべりなメイク係が話しかけてくる。「今のシーン、すごく良かったわよ。ああ……それにしてもなんて綺麗な顔なのかしら。メイクのし甲斐があるわ」 そう言って差し出された手鏡を覗いてみると、ハリウッド流のメイクを施された顔があった。 ...
概要: 翌日、ルシガは大荷物を持って帰って来た。「何それ?」「採血用の機械だ」「えっ?」「使わないやつを病院から払い下げてもらった」「私の為に?」「……ああ」「嬉しい!」 アレックスはルシガに抱きついた。 吸血鬼はセックスで高ぶると、血を吸いたくなる。 ルシガはジョージの事は『不幸な事件だった』と理解してくれたようだったが、性交中に同じ事が起こらないよう、輸血の準備をしてくれたようだ。「今から400cc採...